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5年後、放送には何が求められるのか小寺信良(3/3 ページ)

» 2008年02月04日 15時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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消えない情報格差

 もう一つ、放送に求めるものは、情報格差の是正である。現在のテレビ放送網というのは、系列局によるネットワークが組まれている。地上波キー局の番組を全国に配信するためには必要な仕組みではあるが、逆に系列局がない県では、その系列の番組が見られないということになる。

 筆者が生まれた宮崎県には、いまだに民放が2局しかない。放送開始が早かった宮崎放送(MRT)はTBS系列、後発のテレビ宮崎(UMK)は日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日各系列のトリプルネットである。トリプルネットということは、どんなにうまくやっても各ネットの番組が1/3ずつしか見られないということだ。

 この情報格差は、ものすごいものがある。筆者の妻は東京出身なわけだが、筆者とは子供の頃見ていたテレビ番組の話題がほとんど噛み合わない。むしろ妻の方がよっぽど男の子向けの番組を見ていたぐらいである。

 今回の免許更新では、「放送局に割り当てることのできる周波数が不足する場合」として、その優先順位を決める比較審査基準が設けられた。その中に「地域社会の要望を充足する放送が、より多く設けられていること」という項目において、より多いローカル番組比率を求めている。

 しかし地域住民が求めるのは、すでに他のメディアでも扱われた情報かもしれないローカル番組よりも、首都圏で見られているものと同じものが全国で見られることだ。ローカル番組の台頭は、その要求が十分に満たされた次に来るものである。

 しかもすでに放送には下層レイヤーとして、地域情報に強いケーブルテレビがある。ケーブルテレビなど、どの家庭でも普通に見るものではないという意見もあるかもしれない。しかし実はすでにケーブルテレビの世帯普及率は、40%を超えている(「ケーブルテレビの普及状況」(総務省:2007年6月1日付)リンク先PDF)。

 特に難視聴地域と民放が少ない地域においては、ケーブルテレビの普及率は非常に高い。ローカルな情報は、そこで充足するのだ。それならば地上波放送局の少ない県においては、都心部と同じ情報を伝達することを主たる使命とすべきである。

 この案の意味するところは、地方局に求められる「デジタル放送」とは、1局ネットでハイビジョン放送にこだわることではなく、SDにダウンコンバートしてでもマルチ編成にして、多くのキー局をネットしたほうが、消費者のニーズに適うだろう、ということである。

 おそらくあと5年以内には、放送法と電波事業法を一本化する「情報通信法」も決まる。総務省では平成23年の法制化を目指すというから、5年以内というのはイイ線だろう。もちろんアナログ停波も、あと3年半と迫った。今回の免許の有効期限内に、さまざまな大改革が行なわれる可能性は極めて高い。

 放送事業に関して一言あるという人、これから番組再送信や二次利用サービスに参入する企業は、この機会に放送普及基本計画に対するパブリックコメントを出してみてはどうだろうか。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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