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家庭における3D映像の可能性を考える(3)〜テレビへの応用本田雅一のTV Style

» 2008年03月15日 05時49分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 これまで2週に渡り、3D映像の基本と動向をお伝えしてきた(関連記事12を参照)。今週は3D映像について、その伝送方法を少しだけおさらいしつつ、実際のテレビへの応用を、どのように行おうとしているかを紹介しよう。

 3D映像を放送、あるいは光ディスクなどの映像パッケージにする方法は、大きく2つに分けることができる。1つは3D映像の格納形式(あるいは放送形式)をあらかじめ定義し、2Dでも3Dでも正しく表示可能にする手法。3D映画は48枚のプログレッシブ映像(48P)で格納しておき、3D映像であることを示すタグを付けておく。まだ民生用にこうしたフォーマットはないが、おそらくBlu-ray Discには、そのうち3D用フォーマットが定義されるはずだ。

 2つめは、従来と同じ格納形式を用いながら、3D用に2つの映像を1コマの中に入れてしまう方法。走査線(水平方向のライン)を交互に左右の目に割り当てる方法と、画面を左右に分割して収録する方法が考えられるが、通常は後者(サイドバイサイドという)が使われる。

 サイドバイサイドは、パッと見て3D映像だと判別でき、しかも縦長になるとはいえ、映像の内容を把握しやすいという利点がある。現在、業務用システムを除くほとんどの3Dコンテンツにはサイドバイサイドが用いられている。衛星放送のBS11で放送されている3D放送も、やはりサイドバイサイドだ。

 3Dテレビはサイドバイサイドの映像から2枚の映像に分割し、縦横比を合わせた上で左右の目にそれぞれの映像を見せる。家庭向けテレビで使われる手法は主に2つだ。

photo 赤外線で同期させるアクティブシャッター方式のデモ。Real Dの方式では、DLP方式のリアプロを使っていた

 1つは10数年前ぐらいにも、3Dゲーム用として販売されていたことで知っている人も多いアクティブシャッター方式。テレビ上には左右用の像を交互に表示し、その表示サイクルに同期させてメガネのレンズ部に取り付けられた液晶シャッターを交互にオン/オフする方法だ。メガネを同期させるため、赤外線発振器を用いてフレームの切り替えタイミングをメガネに送出する装置も必要になる。

 この方式の場合、テレビ側が毎秒48コマで素早く応答しなければならない。このため液晶テレビや液晶プロジェクターでは反応が遅すぎ、左右の映像が混ざったように見えてしまう(クロストーク)。アクティブシャッター方式は、DLP方式のリアプロジェクションテレビやプラズマテレビ向けといえるだろう。

 これに対し、BS11がビックカメラ店頭などでデモしている3Dテレビが採用しているのが偏光方式で、前々回に紹介したReal Dの方式とよく似ている。Real Dは円偏光を用いていたが、テレビ用の技術には直線偏光を用いたものが多いようだ(円偏光を用いたシステムもある)。走査線の奇数列と偶数列に対して、それぞれ縦偏光と横偏光をかけ、左右に縦偏光レンズと横偏光レンズを取り付けたパッシブめがねをかけて映像を見ることで3D化できる。

photophotophoto テレビの上部に取り付けられているのが同期用の赤外線トランスミッター(左)。eal Dが家庭向けに製作した3Dプロセッサ。試作品のためサイズが大きいが、実際には弁当箱程度のサイズになるという(中)。アクティブシャッター方式のメガネ。ツルの部分に電池が入っており、レンズの間のブリッジ部に赤外線受光部がある(右)

 ただし、いずれの製品も今のところは長所と短所が混在しており、まだまだ開発のゴールは遠いという印象だ。

 アクティブシャッター方式は画面がひじょうに暗く見えるため、テレビ側を通常の2倍程度の輝度にしなければ、明確な明るさ感を得にくい。またパッシブ方式のメガネを使う方式に比べ、(個人差はあるだろうが)目や脳の疲れが激しく感じる。その代わりにテレビ本体には何の加工も行う必要がないため、普段見る2D映像の画質に悪影響を及ぼさないという大きな利点がある。

 一方、偏光方式の問題はテレビの走査線ごとに、異なる偏光層を加工しておく必要があることだ。偏光層を設けることで落ちる輝度低下はアクティブ方式よりも少なく、また偏光フィルターによる画質への影響は軽微とメーカーは主張しているが、画質の低下(というよりも表面仕上げの関係で、やや見辛くなる)は、見比べなくともすぐに分かる程度の差はある。また、走査線ごとに左右に送る映像を変えているため、縦方向の解像度が半分になる。サイドバイサイドで3D映像を伝送している場合は横方向の解像度も半分になるたため、本来の1/4の画素に情報が減ってしまうという問題がある。

 もし3D映像を楽しむことを主とするならば、偏光方式の方が目への負担も少なく見やすい。解像度の低下も3D化というプラスアルファとのトレードオフならば納得できるという人も多いはずだ。将来性はこちらの方がありそうだ。

 しかし、現在のところ、3D映像は映像コンテンツのごく一部でしかない。基本は高画質な薄型テレビ。しかし、一部のコンテンツは3Dで楽しんでみたい。新しい遊びを取り入れる感覚で楽しむならば、アクティブシャッター方式の方がテレビとしての質を損なわない点で優位だろう。

 まだまだ本格的な普及を見通せる段階ではない3Dテレビの現状だが、一方で改善できると主張する企業も少なくない。例えばReal Dでは「黎明期にはアクティブシャッター方式を推すが、将来はメガネなしで楽しめる3Dテレビの実用化を研究している」と話す。

 メガネなしで3D化とは、いったいどんな技術なのだろうか?(以下、次週)。

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