ITmedia NEWS >

新しいライフスタイルを生み出す、AV機器のワイヤレス化麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/4 ページ)

» 2008年05月01日 11時13分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 そこに登場したのが映像/音声/制御の各信号伝送を1本のケーブルでまかなえるHDMIです。STBやAVアンプのようなハブ的デバイスを導入すれば、ディスプレイに接続される伝送ケーブルはHDMI1本のみとなります。ですが、これでもケーブルが存在すること、およびその長さに起因するレイアウトの制約からは逃れられません。せっかくディスプレイを壁掛けにしておしゃれにしても、使い勝手は従来のままです。そう考えると、デバイスは手元に設置して操作を行い、ディスプレイは壁というスタイルが一番スマートではないかとなります。その間の接続をワイヤードでなくワイヤレスにすればよいのです。

 そうした考えや思惑が、International CESでのワイヤレス展示の多さに結びついたのです。印象的だったのがパナソニックがキーノートスピーチで見せた、――有線でつながっているとみせて、そのケーブルをハサミで切るという――ワイヤレスソリューションのデモです。“ケーブルはAgryなものであり、これからはスマートなワイヤレスだ”という主張をうまく伝えていましたね。

 この流れが顕著なものになってきたのは昨年後半から今年にかけてですが、実は昨年前半にはハイビジョンワイヤレス技術の開発を手掛けるベンチャー各社が積極的にテレビメーカーへプレゼンを行いました。その結果、Wooo UTやAQUOS Xが登場したのです。パナソニックとソニーはまだワイヤレス対応テレビを発表していませんが、近いうちに必ず何らかの動きを見せるでしょう。

同一室内のワイヤレスシステム

――先ほど指摘頂いた、2種類のハイビジョン向けワイヤレス伝送のそれぞれについてもう少し説明をいただけないでしょうか。まずはWooo UTやAQUOS Xで採用された、「同一室内でのワイヤレスシステム」についてお願いします。

麻倉氏: 各社が提案あるいは研究を進めている同一室内での二点間ワイヤレスハイビジョンシステムにおいては、圧縮伝送か非圧縮伝送か、1080Pまでの伝送が可能かどうかなどといった違いがあります。2点間の伝送についてはIPではなく専用経路が利用されるためにセキュアですし、基本的な考えはHDMIのワイヤレス化なので機器制御信号を伝送することも可能です。

photophoto AQUOS X(左)とWooo UT(右)。いずれもオプションのユニットを導入することで、ワイヤレス化が行える

 AQUOS Xに利用されているワイヤレス技術はイスラエルのAMIMONが開発したもので、HDMIを流れる信号を5GHz帯の無線を利用して非圧縮で転送します。誤り補正の強力さが特徴ですが、チャンネル、切り替えの時などにわずかながらも遅延が発生するのと1080iまでなのが惜しいところです(注:初出時、内容に誤りがありましたので訂正させて頂きました)。

 Wooo UTに利用されているのはアメリカのT-ZEROが開発したものです。JPEG2000の技術を用い、静止画を秒間60枚送信して連続表示させることで映像に見せるというものです。この処理はアナログデバイセスが開発しています。こちらの特徴は破綻時のMPEGにみられるブロックノイズが原理上発生せず、映像が柔らかな感じになることです。ただ、まったくノイズが発生しないわけではなく、距離や機器間距離などの関係でエラーが出ることもありますし、AQUOS Xと同じく1080iまで(1080pが転送できない訳ではないが、現実的ではない)なのが残念ですね。

 日立製作所はWooo UTのワイヤレスユニットを発表した際にT-ZEROの名前を伏せていましたが、すぐにその事実は知れ渡ってしまいました。T-ZEROのシステムはアンテナが特徴的な形状をしており、分かる人が見ればすぐに分かったからです。

 こうしたテレビ向けのワイヤレス技術は技術特化のベンチャー企業が開発し、テレビメーカーへ売り込むというかたちになっているため、各テレビメーカーはどこが何を採用するか、お互いにけん制しあっていました。そこで日立製作所がT-ZEROの採用を決めたことで、テレビメーカー各社の動きが一気に加速したのです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.