ノートPCにおいて当初はオプション扱いだった無線LANがいつしか標準的な装備となりワイヤレスでのインターネット接続を当たり前としたように、ケーブルを廃する「ワイヤレス化」は、それまでの利用スタイルを一変させる可能性を秘めている。
それはオーディオビジュアルの世界でも同様だ。各種機器を操作するリモコンはもともとはワイヤードだった。それがワイヤレス化され、いまやなくてはならないものとなっているほか、ワイヤレスのヘッドフォンもひとつの製品ジャンルとして定着している。
そして今、このワイヤレス化にハイビジョンという要素を加えた展開が見え始めている。昨年秋にはソニーの「ロケーションフリー」にハイビジョン伝送可能な製品("ロケフリHome HD"「LF-W1HD」)が登場したほか、日立製作所の"Wooo"「UTシリーズ」やシャープの"AQUOS"「Xシリーズ」はいずれもモニターとチューナーを分離、両者間をワイヤレス接続とするオプションを用意し、新たなテレビの利用スタイルを提案している。
デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏に、AV業界の最新情報や、独自の分析、インプレッションなどを聞き出す月イチ連載「麻倉怜士の『デジタル閻魔帳』」。今回はワイヤレス化がハイビジョン映像の世界に及ぼす影響について考察してもらった。
麻倉氏: ハイビジョン向けのワイヤレスが盛り上がりを見せていますが、これはハイビジョンテレビの進展と新たな使い方に関係があります。ハイビジョン向けワイヤレスには大きく分けて、Wooo UTやAQUOS Xに用意されるワイヤレスユニットのように1つの部屋の中で使われるか、ロケフリHome HDのように部屋の壁を越えるか、という2種類があります。ワイヤレスというくくりでは同一ですが、その中身は異なります。
これまでは技術的な問題のためにSD映像しかワイヤレスで送信できませんでしたが、技術の進歩でハイビジョン映像を伝送できるようになりました。その進歩の具体例が多く示されたのは今年1月に行われたInternational CESです。シャープ、日立製作所、パナソニック、パイオニアなどテレビメーカー各社が超薄型のテレビを展示しましたが、これは「壁掛け=ワイヤレスによるディスプレイの分離」を意識したものです。
テレビは分厚いブラウン管からその歴史が始まりました。これまで厚さ、つまりは奥行きというサイズの制約から部屋の角に置く「コーナー置き」が一般的でしたが、額の中の絵が動くというその形態からして、テレビの前身が絵画だと考えると、壁掛けに“戻る”のは必然とも言えます。
その壁掛けですが、問題はケーブルの処理です。いまのテレビは放送の受信機という役割からさまざまなメディアの出口、汎用のディスプレイとも呼ぶべき存在へと進化しています。それに従い、STBやレコーダーなどさまざまなデバイスが接続されることになりました。コーナー置きならば角のスペースにケーブルを収納できますが、ディスプレイを壁に掛けると収納するスペースがないため、ケーブルは滝のように流れてしまうでしょう。そうなってしまってはせっかくの壁掛けも美的に台無しです。
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