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“音”を追求したHDMIケーブルが生まれた理由――サエク「SH-1010/810」(1/3 ページ)

» 2008年06月30日 13時01分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 これまでも画質の良さをうたったHDMIケーブルは数多くあった。しかし、多くのHDMI機器(ケーブル、AVアンプ、プロジェクター、テレビなど)をテストしてきた経験からいうと、HDMIの場合、ケーブルの違いは画質よりも音質に大きく作用する。HDMIケーブルによる画質の変化が分からないという人でも、音質となるとあまりに大きく変化するので驚く人が多い。

 ところが、HDMIケーブルの価格と音質は必ずしも比例しない。10万円近い超高級ケーブルなのに、音質がややキツめだったり、メーター数1000円の安物でも情報量が少ないまでもイヤな音がなくて聴きやすいといったことも経験したことがある。なぜなら音質を基準に導体や構造、端子部の設計を行った製品がなかったからだ。

 しかし、サエクコマースが7月下旬に発売する「SH-1010」と「SH-810」は「高音質HDMIケーブル」とうたうだけあって、音質の面でこれまでにないパフォーマンスを発揮するケーブルである。とくにSH-1010はやや地味な外見ながら、その音質は低域の立ち上がりが非常に高速でパンチがあり、開放的で明るい音がすること。そして高域の描写が実に滑らかで音場は豊か。多くの情報が濃密にスピーカーの間を埋めてくれる。力強さや開放感といった気持ちよさと、耳あたりの良い優しさの両面を兼ね備えたキャラクターだ。

photophoto サエクコマースの「SH-1010」(左)と「SH-810」(右)。SH-1010は7月20日、SH-810は7月26日に発売される

 低価格版のSH-810も、SH-1010ほどの“濃さ”や豊かな表情は出てこないが、しかし高域のキツさやイガラっぽい音が抑えられ、聴きやすい音を出してくれる。両製品とも“音の質感”を高めるために作り込んだ、初めてのHDMIケーブルだ。

“音にこだわったHDMIケーブル”が生まれた背景

 最初に告白しておくと、このケーブルが生まれた背景と筆者は無関係ではない。このケーブル開発プロジェクトが生まれるきっかけ作りと、開発途中の比較試聴を行ったのが筆者だからだ(とはいえ、本製品が売れるごとに筆者の懐が豊かになるわけではない。念のため)。

 SH-1010は、空気の次に誘電率が高いとされる発泡テフロンを誘電体として使った、高速通信用の信号線を基本に開発されている。導体は厚手の銀メッキされた高純度銅単線だが、6N銅などの超高純度素材ではない(あえて音質を改善するために高純度ではない銅を使っている)。メッキに使う銀の純度、メッキの厚み、銅単線の純度などは、いずれも高音質な高速デジタルケーブルを開発するために決められたものだ。

 しかし、この信号線はHDMIケーブルのために生まれたわけではない。以前、高品質オーディオのデジタル伝送の主役がi.LINKと言われた時代、ソニーのオーディオ機器開発エンジニアである金井隆氏(関連記事:ソニー、「音作り」の哲学を語る)が、ケーブルメーカーとのコラボレーションで開発したもの。当初は高音質i.LINKケーブルとしてソニーから発売することを考えたが、いくつかの問題を詰めることに手間取り、結局、発売されることはなかった。

 筆者はそのケーブルの音質を何度か聴いていたので、高速でデジタル信号をシリアル伝送する技術であるHDMIにも使えるのではないか? と考え、金井氏に「“あの信号線”でHDMIケーブルは作れないか?」と尋ねたのが2006年11月のこと。当時はHDMI経由での音があまりに悪く、業界全体でどうやって音質を改善しようか悩んでいた時期でもある。

 すると、すでに金井氏はHDMIケーブルの試作をほぼ完成させていたが、やはり商品として仕上げるにはシースやコネクタ部分でノウハウ不足とのこと。ならば、音質の良いHDMIケーブルをケーブルメーカーに作ってもらうのはどうか? と提案。多くの高音質ケーブルを扱っているサエクコマースの北澤慶太社長を金井氏に紹介し、高音質HDMIケーブルのプロジェクトがスタートした。

 もっとも、発売までに1年半が必要だったことからも分かるとおり、完成までの道のりは遠かった。高音質にするアプローチは分かっても、それを実践するのは、とても難しかったからだ。

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