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“音”を追求したHDMIケーブルが生まれた理由――サエク「SH-1010/810」(2/3 ページ)

» 2008年06月30日 13時01分 公開
[本田雅一,ITmedia]

端子部に秘策あり

 最初の試作品は、金井氏がそれまでに開発していた導線の構造に、サエクが持つノウハウを組み合わせて開発された。

 導体は前述したように厚手の銀メッキがされた高純度銅単線に発泡テフロン誘電体を組み合わせたもの。HDMIは2組のツイストペア(2本の信号線をより合わせてノイズを打ち消す構造)でデータが伝送されているが、前者2組のツイストペアは銀メッキ銅とアルミフォイルで二重シールドしたツインナックス構造で、非常に手厚いノイズ対策を施している。これに同期信号や制御信号などの通信に使われるさらに数組のツイストペアを組み合わせ、さらにその上にシールドをかけている。

 これにサエクが独自のシース(防護被覆)をかけたケーブルを、シース素材を変化させながら複数試作。その中から比較試聴で選ばれたのが、アモルファス粉末を多く配合したSH-1010の黒いシースである。

 このケーブルの長所は、ほかのHDMIケーブルにはない立ち上がりのスピードだ。特に中低域のパンチ力があり、ガツンとくる力強さがある。低域はフラフラした揺らぎが少なく、中域から高域にかけてはスッキリとヌケよく透明感のある音が出る。

 しかし、初期の試作時に1つ問題があった。質感の表現力に乏しく、楽器の違いや演奏者の意図による微妙なニュアンスの描き分けが不得手。例えばバイオリンの音に深みが感じられず、安いバイオリンの音を聴いているようだった。ジャズやロック、ポップスには良いが、クラシックやしっとりとしたボーカルには向かない。

 いったい、なぜこんな音になるのだろう? と検討している時、金井氏がおもむろにラジオペンチを持ち出し、端子部の周囲を囲むグランド部をつぶし、さらにケーブルの重さが端子にかからないようにしたところ、先ほどのバイオリンにみずみずしさが加わり、喜怒哀楽の表情が深みのある音で再現されるようになった。芯がしっかりとしているためか、音場にも奥行きが出てくる。

 以前、コラムの中で“裏技だがペンチで端子を潰すと音が良くなる”と書いたが、この技法はこの時に生まれたものだ。筆者が試したケーブルは、すべて端子をつぶして咬み合わせを強めにすることで音質が良くなった。特にAVアンプのHDMI端子が横方向に取り付けられている場合は、この対策の効果が大きい。

 とはいえ、HDMI端子の構造は規格で決められているので、最初から潰し気味に作るわけにはいかない。そこで製品では剛性を上げることで、ペンチで締めなくとも密着度が下がらないようにした。

photophoto SH-1010の端子部。剛性を上げて密着度が下がらないようにした

 具体的には、通常は金属の板を巻き付けるように加工しているグランド部を、亜鉛ダイキャストで一体鋳造することにより、つなぎ目が一切できないようにしてある。このほか端子部のモールド(成型)加工部にもいくつもの工夫がされているのだが、サエク独自の工夫もあるため、ここでは言及しないでおきたい。

 開発が長引いた理由の大半は、この亜鉛ダイキャスト製の端子部品にケーブルを音質よく接続する技術と、HDMI規格内のサイズに収めながら、きちんとノイズシールドされた加工を行う技術をそろえるためにかかった時間である。

 ほとんどのハイエンドケーブルがHDMI規格の端子部サイズをオーバーしている(このため横に並べて接続できない場合がある)のに対して、サエクの2製品(同社が輸入販売しているスウェーデンのSupra製品も)は規格内に収めた上で品質を確保している。細かな点だが、ユーザーの使いやすさにこだわったポイントだ。

 なお、この端子部の構造や設計ポリシーは、SH-1010だけでなくSH-810でも貫かれている点に注目しておきたい。

photophoto SH-810の端子部

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