今回の“配信シリーズ”の初回に「ネットワーク配信と光ディスクは競合関係ではなく、補完関係にある」と書いた。誤解がないように最初に書き添えていくと、ユーザー投稿型のコンテンツは、今後もインターネット環境の発展と広がりに伴って、さらに増えていくことだろう。その点に疑問はない。
言いたかったのは、だからといって作品として作り込んだ映像を光ディスクで販売するビジネスが大きくしぼむというわけではない、ということだ。今回はDVDがビジネスの中心になっているハリウッドの映画会社が、自社の持つコンテンツをどのように販売していこうとしているのか。そこにネットワーク配信がどう絡んでくるかについて、話を進めていこう。
今回の話を書きはじめていくつかのメールを頂いたのだが、その中で次のような意見があった。「ゲームの場合、ゲーム機の性能が上がりすぎて製作するのにお金がかかりすぎ、利益を出しにくくなってきている。BDで高画質に行くと同じような問題が出る。コンテンツはライトなものが多くなるのでは」と、かなり省略しているが、そのような意見だった。
ゲーム業界と映画業界はよく比較されることがあるのだが、ビジネスモデルは根本的に異なる。ゲーム機はターゲットのプラットフォーム向けパッケージが売れなければ、製作原価の回収さえままならない。
映画は制作費回収ができない失敗作も存在するが、基本的にその回収は劇場公開時の入館料や世界中のディストリビューターに売ることでまかなう。それでも足りなければDVDやBDに頼らなければならないし、それらに頼っても赤字ということもあるだろう。しかし、あくまでも映画は映画館向けのコンテンツだ。
映画会社がDVDのビジネスに力を入れたのは、すでに劇場向けの販売が終了した作品に1枚あたり数ドルのコストを支払えば、1枚が数10ドルで売れるからだ。だから“ウハウハ”だし、これからももっと金を取りたい。なんて脳天気なことは考えていない。
1つの作品に数10ドルを支払って、モノとして所有しようという人には、それなりのプレミアム感、購入することに対する満足感を与えようと考えた。だから画質や音質にこだわる。
しかし世の中には、どんなにプレミアムな価値を出そうと努力しても、そこには一切のお金を払いたくない人たちがたくさんいる。ネットワーク配信サービスは、そうしたお金を払ってくれない人たち向けに、それでも別の手法でなら……とばかりに提案しているものだ。だから期間限定で再生可能なレンタルに近いモデルが多い。
ここから先、考え方のロジックはすべて同じ。例えばiPodや携帯電話に映画を配信する場合、それ以外の方法では見てくれそうにない客層がターゲットだ。高品質のパッケージソフトが欲しい人は見向きもしないような解像度であっても、小さな画面なら満足できるという映像を売ればいい。
携帯機器向けに映像を配信する理由は、映画を見たいのに見る時間がないという人たちのためだ。しかし、彼らの中には「いつ暇になるか分からないけれど、パッケージも買っておきたい」という客層は確実にいる。そんな人たちに対しては、“セカンドセッション”という手法で、新しい使い方を提案を行っている。
これはパソコンや携帯機器向けに、画質は落ちるけれど外に持ち出しやすい、チェックアウト用の別映像ファイルをパッケージの中に仕込んでおくというものだ。北米ではすでに実験的に販売が行われており、別DVDの添付という形で実現している。しかし、BDの大容量を生かせば、あらかじめBDの中にチェックアウト用ファイルを入れておけばいい。もし日本でやるなら、携帯電話向け映像をあらかじめ入れておく、といった方法になるだろうか。
いずれにせよ、北米でもまだ実験的な段階で、1回は無償でチェックアウト。将来はインターネットを使って有償でチェックアウトといった形ができないか? といったことを考えているようだ。
一時はHDの映像を、そのままマネージドコピーで書き出すといったことも検討され、実際にBDでは技術的な要素としてはマネージドコピーが加味されているが、まずはその前段階として、セカンドセッションという考え方を、どう発展させていくのかに議論が集中している。
つまり、ユーザーが映像を見たいと思うシチュエーションは多様なので、その場に合わせて多様な経路と多様な品質でコンテンツを流通させる、その1つの方法として、ネットワークを利用しようという考え方が、映像配信の本格化の前に、まずは広がるのだと思う。
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