先週取りあげた「プレイステーション 3」向けの映像配信サービスと並び、映像配信サービスでもう1つ話題になったのが、任意団体だった「IPTVフォーラム」が有限責任中間法人として設立されたニュースである。詳細は発表記事を参照してほしいが、こちらは”スグに”とはいわないものの、将来の発展が期待できそうだ。
DVDやBDのROMで流通(あるいは期間レンタル)させる映像パッケージがファイルダウンロード型のネットワークサービスだとすれば、IPTVはその名前の通り、IPネットワークを電波放送の代わりに利用するストリーム配信型のサービスである。「ニコニコ動画」や「YouTube」も、大まかな分類としてはIPTVアプリケーションの一種といえるが、(解釈の仕方によるが)厳密にいうとちょっと違う。
ニコニコ動画やYouTubeは、インターネットでユーザーを結び、各種の動画を共有することで自己拡大を続ける、インターネットの持つダイナミズムを生かしたサービスだ。これに対してIPTVは、あくまでもテレビ放送をネットワーク技術で前へと進めたものと筆者は解釈している。
インターネットを使った動画のストリーム配信は、現在のインターネットが持っている輻輳(ふくそう:通信要求が集中することで、通信遅延やデータ破棄による再送が発生し、著しく実効通信速度が落ちること)の問題と隣り合わせだ。通信を効率よく管理したくとも、インターネットではそれができない。
しかしインターネットサービスプロバイダ(ISP)が、自社ネットワーク内の通信を最適化し、自社顧客に対してのみ映像を配信するのであれば、輻輳によるネットワークの崩壊を避けることが可能だ。
ニュースではさらっと“IPTVフォーラム設立”と報道されているだけなので、サービスの内容は把握できても、インターネット上の映像配信サービスやダウンロード販売とどう違うのかが分かりにくいが、ユーザーの足回り(アクセスライン)が充実している日本なら、サービスの品質を確保しやすいという利点もある。
「Skype」や「Windows Live Messenger」の通話機能などを映像のストリーミング配信サービスに例えるなら、IPTVはIP電話に相当するサービスだ。例えば「Gyao」はU-SEN以外のプロバイダからアクセスした時は一般的なインターネット向け映像ストリーミングサービスだが、USENからアクセスした場合はIPTVといえるだろう。そのほかのISPも自社のネットワークユーザー向けにIPTVサービスを行っている例は少なくない。
まだまだ本格普及を見込むまでには時間がかかりそうだが、これまではさまざまな規格が乱立して相互の視聴が見込めなかったことを考えれば、IPTVフォーラムに関係各社が参加してミドルウェアとAPIを決めていくというのは大きな前進といえる。これが実現されれば、映像ポータルごとにコンテンツが分散したり、機器の互換性などの問題も解決できる。また、インフラ側でも中継を行う標準が確立されることでコンテンツの相互乗り入れが容易になるはずだ。
もちろん、単純に多くの世帯へと映像を配信するだけならば、IPネットワークを使うよりも電波を用いる方が効率はいい。映像配信を行うために必要な帯域を確保するため、サーバやネットワーク機器などに余分な負荷がかかるとしたら、総合的な電力効率の面でも不利かもしれない。しかし、IPTVには大きな利点がある。双方向通信によるインタラクティブ性やオンデマンド映像配信だ。
オンデマンドの映像配信は、レンタル的に1回だけ映画を見るといったことにも使えるが、番組のタイムシフト視聴というスタイルの置きかえと考えた方が分かりやすい。手元にずっと残しておきたい録画ライブラリではなく、単純に放送スケジュールに縛られずに見たいだけなら、IPTVが問題を解決してくれる。
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