1995年にDVカメラが登場し、実写映像をPCへ取り込むことが飛躍的に簡単になって以来、多くのメーカーが何度も「ビデオ編集」をコンシューマ市場に向けて仕掛けてきた。「マルチメディア」なるものが全盛だった当時、多くの人のあこがれのソフトと言えばAdobe Premiereだったわけだが、それ以外にも優秀なソフトウェアが次々に立ち上がった。
ビデオ編集という市場が順調に立ち上がるかに見えたが、2001年ごろから立ち上がったDVDライティングブームが、流れを変えていった。撮影したビデオを編集してDVDに、という流れはあったものの、本流にはならなかった。多くの人は、単に録画したテレビ番組からCMをカットしたいだけだったのである。
しかし今、再び映像編集が注目を集め始めている。動画投稿サイトの隆盛で、既存の作品を編集してみたり、オープニングタイトルと同じカット割りをしてみたりという行為を通じ、異なるカットをつなぐことで印象や意味が変わるということに気づくアマチュアが増えている。
多くの人が、写真のように動画を操っていくというのは、いい傾向である。これから映像の編集を志す人のために、映像記録と編集の歴史とおもしろ話を語っておくのも、そろそろいい時期かもしれない。
筆者がテレビの編集者となったのは、今から25年前である。映像編集の歴史は一通り体験してきたつもりであるが、もちろんそれは歴史の半分にも満たない。それ以前の方法論については、先輩たちからの伝聞ではあるが、非常に興味深い話がたくさんある。
映像編集技術というのは、映像記録メディアと重要な関わりがある。もちろん最初はフィルムだ。筆者自身はフィルム編集の時代を知らない。民放はかなり早くVTR収録・編集に切り替わったからである。だがNHKの報道は、比較的フィルム撮影・編集が長く残ったので、筆者より7年ぐらい先輩はフィルム編集の経験がある。
報道で使用されるフィルムは、16ミリである。通常のニュースでは200フィートのものが標準であった。撮影時間は5分半だが、報道では通常の24コマで撮影することはなかったようである。16コマで撮影した場合は、8分強。フィルムは現像に時間を取られるが、それを短縮する方法はない。従ってなるべく編集時間を短縮するため、カメラマンは「順撮り」と言われる方法で撮影した。
つまりこれは、撮影の段階から編集の構成を考えて、その順番に撮影していくのである。例えば交通事故の現場ならば、まず近隣の建物に登って現場付近のロング、続いて下に降りて現場の状況、壊れた車全景、衝突カ所のアップ、飛び散った破片、と言った具合に、編集するであろう順番に撮影する。
こうしておくと、編集時にはカット替わりのブレた部分だけつまんでいけばいい。速報の場合はそのまま出す。当時のニュースカメラマンは、編集のセンスがないと「下手くそ」と言われたそうである。
フィルムは素材そのものを手にとって、光にすかせば中身が見える。従って編集は楽なように思えるかもしれないが、実際に映写機にかけるまでは、等速での時間が分からない。しかし、いちいち1カットずつ映写機にかけていられないし、1秒のコマ数を数えてもいられない。だから当時の編集マンは、自分の体の長さを使って秒数を数えた。
例えばフィルムの端を手に持って、ヒジまでで何秒、腕全部で何秒、と言った具合に、それぞれの基準を持っていたのである。編集マンは「このカットが3秒半欲しい」と思ったら、ヒジを使ってその3秒半を計るわけである。実際につなげてみた感じというのは、映写機にかけるまでは分からないわけだが、そこは頭の中で想像してつないでいった。
当時の編集は、立ち仕事である。必要なカットはピンチ(洗濯バサミみたいなもの)にはさんで、横に張り渡したワイヤーからつり下げておく。編集室は、それこそジャングルのようにフィルムがぶら下がった部屋だったわけである。VTR時代の編集者がうらやましく思ったのは、当時は「間違って消す」ということがなかったことである。間違って捨てることはあっても、ゴミ箱をあされば出てくる。このあたりの操作性は、のちのPC用編集ソフトによって再現されている。
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