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ゴキゲンなサウンドを生み出す情熱音楽空間――BGマスタリングを訪ねて(1/4 ページ)

» 2009年01月26日 16時02分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 「2009 International CES」が終わると、その帰りにロサンゼルスでしばしストップオーバー。映画スタジオを巡訪するのが毎年の慣例行事になっている。今年ももちろん映像系の取材を重ねたが、今回は少しだけ趣向を変え、良い音楽を生み出す“行程”に着目し、CDやアナログレコードが生まれる課程を追ってみたい。世界最高峰と賞されるマスタリングスタジオ、「Bernie Grundman MASTERING」(バーニー・グランドマン マスタリング、以下BGマスタリング)を訪問することができたからだ。

世界最高峰のマスタリングスタジオ

 BGマスタリングスタジオは、”良い音のディスクを作りたいならココ”という、定番マスタリングスタジオ。音楽業界の人間なら誰でも知っているところで、毎年、ここでマスタリングされた作品がグラミー賞に20〜30タイトルほどノミネートされる。業界内のテクニカルな賞の受賞歴は数え切れない。

 この取材をアレンジしてくれたのは、筆者の友人でハリウッドを拠点に音楽プロデューサー/コーディネーターを務める田口晃氏。田口氏はJVC時代、高音質の知られる「XRCD」を創始し、プロデューサーとしても2回、グラミー賞を受賞した人である。”音楽的な表現力の深い音”を突き詰めさせると、なんともウルサイ、頑固オヤジだが、それだけにハリウッドの音楽制作業界でも名の知られた有名人である。

photophoto 至る所に制作に関わったプラチナディスク、ゴールドディスクが並ぶBGマスタリング(左)。昨年夏、「TIME BGカッティング」シリーズの完成を祝うバーニー・グランドマン氏と田口氏(右)

 田口氏は、昨年もBGマスタリング創始者のBernie Grundman(バーニー・グランドマン)氏とともに、ジャズ・レーベルの「Time」が持つ山のようなアナログ3チャンネルマスターから、状態の良いマスターテープを発掘・厳選し、10タイトルをSHM-CDなど2フォーマットで「TIME BGマスタリングシリーズ」としてリリースしたばかり。ラッカー盤(金属の表面にラッカーを塗布したもの。これにマスターテープの音をカッティングマシンで刻む)のメーカーから厳選し、カッティングマシンのチューニングも厳密に行ったという200グラムの重量盤LP「TIME BGカッティング」シリーズも近く発売される。

 その音はすさまじく情熱的で、マイナーレーベルならではのハングリーさを感じさせる。実はこれらTimeの10タイトル(ブッカー・リトルやソニー・クラーク・トリオなど)は、かつてテイチクからCD化されているのだが、マスタリングをやり直していることもあって、同じ素材から生まれたCDとはとても思えない。

 なぜ、同じ録音からこれほどすばらしい音が生まれてくるのか。BGマスタリングのエンジニア部門トップで、機材をメンテナンス、セッティング、修復させると右に出る者がいないといわれるBeno May(ベノ・メイ)氏と田口氏に案内されて、BDマスタリングのマスタリングルームを訪ねた。

厳選したパーツを用いた自作で独自の音を作り出す

 まず、マスタリングという行程について、簡単に説明しておこう。

 音楽を録音した後、それを2チャンネルステレオにミックスする行程があるが、そこでできた2チャンネルマスターをそのままアナログレコードやCDに収められるわけではない。例えばアナログレコードならば、収録時間内に収めたり、針飛びしないように全体のダイナミックレンジを調整しなければならないし、カッティングの状態によっても音質が変化する。CD化する場合も同じで、16ビット/44.1kHzという決められた枠の中で、どうオリジナルの演奏を表現するか? が課題になる。信号の扱いの1つ1つによって、音の鮮度や音楽としての躍動感が変わってくるからだ。

photophoto Contemporary Recordsから買ったというチューブのカッティング・マシーン。Power Supplyとオーディオ部分はHaeco(左)。カッティングが終わったラッカー盤を顕微鏡で検査するグランドマン氏(右)

 料理に例えると、新鮮な素材を調達して仕込みを行うのがレコーディング、それぞれの素材の良さを生かすレシピを考えるのがミックスの行程、そして実際に調理して美しく盛りつけるのがマスタリングといえるだろう。

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