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ゴキゲンなサウンドを生み出す情熱音楽空間――BGマスタリングを訪ねて(2/4 ページ)

» 2009年01月26日 16時02分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 BGマスタリングには4人のマスタリングエンジニアが在籍し、それぞれのエンジニアの好みや扱う音楽に応じて、それぞれ専用マスタリングルームを持っている。ベノさんは、そのすべてのチューニングを徹底して行っているという。

photophoto マスタリングルーム内の様子。黒い壁面に見えるのが壁面に作られたモニタースピーカー(左)。ベノさんがレストア中の1インチ2チャンネルテープデッキの巨大な磁気ヘッド部。質の良いアナログ機材を中古でかき集め、良い部品を調達してカスタム制作する(右)

 映画サウンドトラックが得意なパトリシア・サリバン氏だけは異なる機材構成だが、ほかの3氏の基本的な機材は同じ。モニタースピーカーはタンノイの15インチ同軸ユニットのウーファー部だけを用い(これはスピーカーの分割震動を避けるため)、これに別途、聴感で選んだツイーターユニットを組み合わせ、オリジナルのネットワークを通して駆動。エンクロージャーは自作で壁面に組み込んでいた。

 チューニング機材を組み込んだコンソールも、見た目には既製品と同じだが、ボリュームはもちろん、内部の抵抗やコンデンサーなどの部品まで、すべてベノさんが良い音になるよう選んで、常にメンテナンスを行っているため、同じ機材を買ってきたからといって、BGマスタリングと同じ音にはならない。

 田口氏は、「日本のスタジオとの一番大きな違いは、彼のような”テック”と呼ばれるエンジニアの腕が大きい。例えば何気なく置いてあるスチューダのテープデッキも、そのままではなく、ほかの状態がいいヘッドやモーター、電子部品をベノさんが組み込んでチューニングしているから、見た目は普通のスチューダでも、音の鮮度がまるで違う」と話す。

photophoto 見た目は普通のスチューダにしか見えないが、中身は全然別物だよと話すベノさん(左)。「トランジスタを使ったら監獄行き!」との注意書き。アナログレコードのカッティングマシンにはられていた(右)

 最終的な音は、各エンジニアの個性に合わせ、さらに追い込んで音を作り出していくが、それもベノさんが指揮をとってメンテを行っている。例えばグランドマン氏の部屋は実にニュートラルで、音場の深さ、豊かさが分かりやすいバランスの良い音作りになっているが、ブライアン・ガードナー氏の部屋は低域の立ち上がりはやや遅いものの量感があり、ハイエンドもよく伸びる音といった具合だ。

 ガードナー氏はヒップホップ系アーティストの楽曲を担当することが多く、ジャズを得意とするグランドマン氏とは、聴かせる顧客(この場合はアーティスト)が異なる。また、元の録音がキレイではないことが多いため、ガードナー氏の部屋にのみ、音をクリーンアップして鮮度感を引き出すための機材がある。

 適材適所で優れたサウンドを、エンジニアが求める方向でチューニング、メンテをするベノさんは、BGマスタリングの中でも特別な存在だ。

photophoto ベノさんの作業部屋。東京から送られてきたテープデッキの修理をしているところだという。田口氏によると「普段はこんなにいろいろ教えてくれないよ。寡黙で表には出ないけど、良い音の機材を作らせたら世界最高の職人」(左)。デジタルデータを収める”音質の良い”ドイツ製サーバコンピュータ「Audio Cube」。しかし、それでも満足できないため、すべて部品を入れ替えて作り直しているという

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