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高音質CDブームの行く末(1/3 ページ)

» 2009年01月23日 11時26分 公開
[野村ケンジ,ITmedia]

 仕事柄、CDを購入枚数は少なくない方だと自負はしていたが、それにしても昨年は異常なくらいの数になった。購入した枚数に、各レーベルから貸与されたサンプル盤を加えると、その数は200枚近く。昨年が50枚前後だったから、今年はその4倍ほどのアルバムが集まってしまったことになる。

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 理由は分かっている。2007年の年末に始まった高音質CDブームのためだ。それまでは新譜ばかりを追いかけていたので年間50枚程度で済んだが、昨年はそれに加えて高音質CDの名盤が加わり、さらに高音質CDブームによって、そのサンプル盤が手元にまわってくる機会がずいぶんと増えた。

 このように、2008年は音楽ファンにはとても“ホット”(死語)な年だった。もちろん、音楽の提供形態がパッケージメディアからネット配信に移行しつつあるのは事実だ。しかしCDが、まだまだ根強い支持を得ていることに間違いはない。とくに音質の良さとタイトル数の豊富さのバランスを考えると、CDは「音楽供給メディア」としてまだまだ有力な存在であり続ける。そこで今回の記事では、この1年あまりの間に発売された「高音質CD」について、その内容を改めてふり返りつつ、今後の動向を推測してみたいと思う。

高音質CDブームの火付け役「SHM-CD」

 近年の高音質CDを語る場合、なによりも真っ先に取り上げるべきなのは「SHM-CD」だろう(→いま手に入る“高音質CD”「SHM-CD」を聞き比べる)。2007年11月に販売がスタートしたこの高音質CDは、いまでこそ800近いタイトル数を誇るメジャーな存在となっているが、当時は市場の動向を探るテストケース的な意味合いを持たされていたし、「本当に売れるの?」と疑問を投げかける声もあった。

 しかし実際に販売がスタートしてみると、発売元が予想していた以上の大きな反響があり、1年間で15億円以上の売り上げを誇るビッグヒットとなったのである。それが原動力となり、今日の高音質CDブームが訪れることになったのは皆さんもご承知の通り。「音の良いCD」に対して、確固たるニーズが存在していたことを、レーベルも音楽ファンも再認識したのである。

 さらにSHM-CDは、これまでの高音質CDと2つのポイントが異なっていた。それが決定打となって、今回のヒットにつながったと僕は思っている。

 まず最初のポイントは、制作側の負担がとても軽いことだ。SHM-CDと一般的なCDとの相違点は、盤に使用しているポリカーボネート樹脂の質のみ。これを液晶モニターに使われている透明度の高いタイプに変更することで、読み出し時のデータエラーを低減させ、高音質サウンドを実現した。もちろんスタンパー(CDに音楽情報のビットを転写する板)の精度向上や量産効率よりも品質を優先させた専用生産ラインの新設なども行っており、それらの効果も確かに有用ではある。が、製作者側からみると単なるリプレースのプロセスとなんら変わりなく、そのために既存のマスター音源にいっさいの加工なしで、簡単に“高音質化”が実現できたのだ。この手軽さによって、急激にタイトル数を拡大することが可能になったのである。

 もう1つのポイントは、SHM-CDの高音質を広くアピールするために、通常版のCDと2枚セットにしたサンプルディスクを低価格で販売したことだ。「××CDは音がいい」といっても、比較対象がなければどれだけ音がいいのかよく分からない。以前に通常のCDを購入している人がSHM-CDを買い足し、比較試聴すればその良さも理解できるだろうが、僕のような仕事をしている人か、よっぽどのファンでもないかぎり、同じタイトルを2枚購入することにためらうのが当たり前。そういった「ごく普通の感覚の音楽ファン」にもアピールできるよう、ユニバーサルミュージックはサンプルディスクを用意して、多くの人が、手軽にSHM-CDの音の良さを実感できるようにしたのだ。この戦略が功を奏し、SHM-CDの音の良さを多くの人が知るところとなる。

 このようにSHM-CDは、音質の高さはもちろん、そのアピールが功を奏して現在の人気を獲得した。こうしたユーザーニーズに沿った戦略は、大いにほめるべきだろう。

SHM-CDお勧めタイトル

「これがSHM-CDだ!クラシックで聴き比べる体験サンプラー Vol.2」(2枚組)1000円。SHM-CDと通常CDがセットとなった比較試聴サンプルシリーズのクラシック最新作
「レッド・ツェッペリンIV」2580円。1994年に行われたリマスターの良さが、SHM-CDによって開花したという印象。質実ともに名盤といえる1枚だ
「村治佳織/Transformations」3300円。村治佳織を代表する名盤。イギリス録音による、湿度感をともなったギターの音色がなんともいえない郷愁を誘う

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