SHM-CDのヒットを受け、新たに高音質CDに対するアプローチを行ったのがHQCDである。こちらはCDメディアを製造しているメモリーテックが中心となって起こしたブランドで、後発のためにハード的な部分でSHM-CDに対してアドバンテージを持っているのが特徴だ(→「高音質CD」――どこがどう違う?)。
まず、素材に液晶パネル用の高品位ポリカーボネートを採用するのはSHM-CDと同様だが、反射皮膜を従来のアルミ皮膜に対してHD DVD開発のノウハウを生かした独自の合金タイプに変更。反射率と信号特性を大きく改善した。
実際にその音を聴いてみると、確かに音質の向上がSHM-CDよりもはっきりと分かる。とくに良好なのが音の鮮度とボリューム感。フォーカスが良くエッジも効いており、加えてボリュームを上げたかのようにダイナミックレンジが広がるため、強弱、ニュアンスの細やかさがともに向上、音に迫力と生々しさが感じられるようになった。
通常CDとの差は、人によってはSHM-CDよりも顕著に感じられると思う。SHM-CDでは、ニルヴァーナのベストなど、もともとのマスター音源があまり高音質でないものは、UK盤など音の良さに定評ある輸入盤と聴き比べて大きな差を感じられないものもあった。しかしHQCDでは、音量とニュアンスの細やかさに明らかな差がある。これこそ反射皮膜改善のアドバンテージなのだろう。
HQCDは、ポニーキャニオン、コロムビア、EMI、M&Iミュージック、エイベックス・エンタテイメントなどがリリースをスタートしており、今後も多くのレーベルが参加する予定だという。音質には充分以上のスペックを持ち合わせているので、今後のタイトル数拡大に期待したい。
そして昨年末にデビューしたのが、ソニーミュージックのBlu-spec CDだ。こちらはSHM-CDに遅れること1年あまりの登場となっただけに、充実した内容となっている(→Blu-ray Discの素材と技術を応用した高品位CD「Blu-spec CD」登場)。
まずマテリアルは、Blu-rayディスクに使われている高分子(=高透過率)ポリカーボネート+一般的なアルミ反射皮膜と、SHM-CDに近い仕様。それよりも最大の違いとなっているのは、スタンパー(CDに音楽情報のビットを転写する板)の製作精度だ。
Blu-spec CDでは、Blu-ray Discの製造で培った、ブルーレーザーダイオードによる超精密カッティングにより、マスター音源の信号を忠実に反映しているのだ。さらにBlu-ray Discとおなじ高分子ポリカーボネートによって、スタンパーに刻まれたピットを正確に転写させることを実現している。
SHM-CDなどでもスタンパーの精度向上は図られているが、ここまでのこだわりを持って製造されたのはBlu-spec CDがはじめて。Blu-ray Discを先導したソニーグループならではのアドバンテージといえる。
実際のサウンドは、感服するほどのリアリティー。音がむき出しで、通常CDの音がまるで反射音を聞かされていたと勘違いするくらい、輪郭がはっきりとしている。良質のマスター音源では、どこまでも深くリアリティーを感じ取ることができるようになる。だから音源の良くないものは、そのデキの悪さがあからさまとなる。また通常CDではマスター音源からCDへなる際にクオリティーダウンしていたため、それがある程度の“なじみ効果”を生み出していたのだが、そういった変化が限りなく押さえ込まれたために、重ねどりの違和感も顕著になるので、エンジニアサイドからは”もろ刃の剣“となるかもしれない。どちらにしろ、ユーザーにとっては、CDでCD以上の音楽を楽しむことができる、肯定的な存在であることは確かだ。
ちなみにラインアップに関しては、2008年12月に60タイトルが登場し、この1月に20タイトルの追加発売が決定している。それらはクラシックやジャズ、ロックなど名盤のリプレースが中心となっているが、今後は新譜に対しても積極的に展開する計画もあるという。またBlu-spec CDはソニーミュージックだけで使用する規格ではなく、ほかのレーベルに対しても広く採用をアピールしていくとのこと。まだ具体的に採用を決定したレーベルは公表されていないが、今後のタイトル数拡大を大いに期待したい。
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