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「貯金箱の日」に秘められた“節約術”(1/2 ページ)

» 2009年07月03日 00時10分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 2009年6月某日、東京・葛飾区。

 タカラトミー本社のある会議室で、一風変わった会合が開かれていた。集まっていたのは、エポック社、テンヨー、メガハウスといった玩具メーカー各社の社員たち。肩書きは商品開発からマーケティング、営業部長までバラバラだが、担当している商品が“貯金箱”という点だけが共通していた。10月10日の「貯金箱の日」に向けた共同プロモーション企画の検討だ。

 貯金箱の日は、2008年に日本記念日協会が正式に認定した新しい記念日だ。実は、今回集まったメンバーが制定準備会を作って働きかけたという経緯があり、今年も認知度アップを狙って共同マーケティングを展開しようとしている。

photo 今回は、エポック社、タルガ、テンヨー、やのまん、トイボックス、タカラトミーの6社が集まった

 「貯金箱はお金を貯める道具であると同時に、夢に向かって貯めるという行為を楽しむもの。その貯金箱について考えていただく日として、実りの季節である秋に“貯金箱の日”をもうけようと提案しました」(タカラトミーの高橋英之氏)。

 もちろん、あまり表には出さないが、『貯金箱が売れるといいな』という真の目的があるため、バレンタインデーのチョコレートよろしく、「自分のため、大切なあの人へのプレゼントに貯金箱をいかがでしょうか」と同時に提案している。

 高橋氏は、貯金箱の日制定を働きかけたきっかけをこう説明する。「近年、玩具メーカーからユニークな貯金箱が相次いで登場し、それまで玩具に興味を持たなかった人たちが興味を持ってくれるようになりました。実は昨年、『人生銀行』を購入した若い女性から、『電池ボックスのふたがネジどめになっていて遊べない』という意見をいただきました。安全性を考慮してネジどめにしているわけですが、確かに1人暮らしの若い女性はドライバーを持っていなくても不思議ではないでしょう。このとき、従来の玩具とは異なる購買層にアプローチできたことを実感しました」(高橋氏)。

photophoto タルガが7月11日に発売する「昭和の名曲 電話銀行」(左)。お金を入れると「少年時代」「贈る言葉」「川の流れのように」「ゆけゆけ飛雄馬」など、懐かしの名曲が流れ出す貯金箱。3990円。右の「電車銀行」は、JR駅の発車ペルやメロディーが聞ける貯金箱。価格は5198円(販売中)

 新しいチャンスととらえた高橋氏は、競合他社と一緒に業界を挙げて市場を盛り上げることを考えた。共同でプロモーションを行い、「貯金箱の日」制定を呼びかける。世の中に浸透すれば、お金をかけなくても必ず1年に1回は需要期がやってくることになる。

 ただし、新しい規格の策定などでメーカー間で話し合う(と同時に腹を探りあう)機会の多い家電業界やIT業界と異なり、それまで玩具メーカーの間には交流などほとんどなかった。同じジャンルの商品を作っている会社は、あくまで競争相手。「初めて電話したとき、こちらが名乗ると相手が電話口で固まったのが分かりました」と高橋氏は笑う。

 それでも同じ目的と思惑を持つメーカー同士。目標を共有できたことで、企画は動き出す。

photophoto お金が消える不思議な貯金箱「アートバンク」などで知られるテンヨーのイチオシは「10万円貯まる本」(通称:貯金本)。ページの穴に500円玉をはめ込んでいくと旅が進む。日本旅行のほか、世界一周、全身健康旅行といったバリエーションも販売中。各1260円

 10月10日という日は、ビジュアル重視で選んだ。「1」を貯金箱のコイン投入口、「0」をコインに見立て、貯金箱にコインを入れる様子になぞらえている。加えて10月10日は、2008年が金曜日、2009年は土曜日、2010年も日曜日と3年連続して週末にあたり、プレゼントを購入したくなったら、すぐに行動できる利便性を兼ね備えていた。

 無事に「貯金箱の日」が制定され、いくつかのマスコミが取り上げると、次第に実益にもつながりはじめる。例えば、タカラトミーの「貯金伝説 バンククエスト」は、発売から数カ月が経過していたにもかかわらず、「10月には、発売時と同程度の数量が売れた」(同氏)という。発売直後にピークを迎え、あとはゆるやかに落ちていくのが常であったから、大きな手応えを感じることができた。

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