今から約1年前の昨年1月、ぼくはビクターのD-ILAプロジェクター「DLA-HD750」を自室に迎え入れた。それまでは映画館でも使われている、昼光に近いブロードな色分布特性を持つキセノンランプを採用したソニーの「VPL-VW200」を使っていたのだが、DLA-HD750に設けられた映像モード「シネマ1」の“映画の色”に衝撃を受け、3管式時代から数えると5機種を使い継いできたソニー製プロジェクターからビクターのD-ILA機に乗り換えたのだった。
昨年(2009年)の秋、そのDLA-HD750の後継機となるDLA-HD950が発表された(→日本ビクター、倍速駆動対応のD-ILAプロジェクター「DLA-HD950」)。デザインはDLA-HD750とうり二つ、資料を見ても新機能として倍速駆動が実現されたくらいで、光学系は進化していないようだし、コントラスト比のカタログスペックも5万:1と同じ値。当初はこれならわざわざDLA-HD750から買い替えることはないかなと思っていた。
しかし、実際に両機を見比べるチャンスを得て、その画質差、映像表現力の進化ぶりを目の当たりにし、「こりゃ仕方ないな……」とつぶやきながらDLA-HD950への買い替えを決めたのだった。
1月上旬、わが家に届いたDLA-HD950をセットアップし、この1カ月間、Blu-ray Discの映画や音楽、アニメーションなどさまざまな映像作品を観てきたが、その画質の素晴らしさに触れて、改めて買い替えてよかったと実感した。とくに「シネマ1」画質は、DLA-HD750でやや気になっていたガンマ特性が見直されたようで、黒つぶれが減って明部のピーク感が抑えられ、より精妙な階調表現が得られるようになった。いっそう安心して映画が楽しめる完成度を得たといってよいだろう。
ではここで、DLA-HD750から引き続いて採用された「シネマ1」の考え方について触れておこう。
DLA-HD950の光源には、DLA-HD750と同じ200ワットの高圧水銀系ランプが使われている。このランプは映画館で使われているキセノンに比べると、色分布特性にバラつきがあり、とくに赤系統の出力が低い。しかし、ビクター技術陣は、キセノンより発熱も消費電力も少ないこの汎用的な高圧水銀ランプで、なんとか映画の真実に迫ったリアルな色を出したいと考え、独自の開発手法を採ったのである。
それが内蔵された「カラーマネージメントプロセッサー」の徹底活用。まず同社製業務用プロジェクターで使われているキセノンランプを映画の標準フィルムであるイーストマンコダックの35ミリ映画用フィルムに当て、色度図上の500ポイントでその明度・彩度・色相を完全データ化、フィルムにキセノンを当てたらどう発色するかをカラーマネージメントプロセッサーでパターン化し、映像モード「シネマ1」に落とし込んでいったわけである。
「シネマ1」におけるフィルム映像の解析の応用は、それだけにとどまらない。まず色温度設定をキセノンのそれに近い5800ケルビンとし、暗部と明部を寝かせ、中間調を立たせたS字を描くフィルム特有のガンマカーブを不自然な画調にならないようにトレースしたり、最暗部に色が乗らず、ハイライトで色が抜けるフィルムの特性に合致するように、輝度と色特性のマッチングを図っているのである。その結果視感上の色ギレが向上し、高彩度部の色輪郭がかつて見たことないほどクリアに表現されるようになったのだ。
他にもぼくがDLA-HD950にひかれる理由がある。それが優れた光学ユニットによる精細感の表現だ。ED(低分散)レンズを含む17枚構成の2倍ズーム・オールカラーレンズはDLA-HD750で採用されたものと同じだが、視感上のフォーカス感、シャープネスはDLA-HD750の上をいく印象を受ける。これは各映像モードでガンマ特性をよりいっそう磨き上げたことが大きく寄与しているのだろう。いずれにしても、現在発売されているすべてのプロジェクターの中で、もっとも高精細な映像を映し出せるのは本機だと思う。
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