近年、オーディオファン、音楽ファンの間で再評価されているSACD。2009年にTEACのエソテリックブランドから発売された英DECCA(デッカ)の名盤タイトルがヒットして以来、ユニバーサル ミュージックの「SA-CD 〜SHM仕様〜」など、過去の名演奏を最高のパッケージとして復活させる動きも活発化している(→SACDの復権、BDオーディオの登場)。中でも最近、音楽ファンの間で脚光を浴びているのが、今年1月にEMIから発売されたクラシックのシリーズだ。クラシックにも造詣の深く、津田塾大学でクラシック音楽を教えているAV評論家・麻倉怜士氏にその魅力を語ってもらった。
――SACDを再評価する動きが続いています
CDが右肩下がりを続け、音楽配信も前年比で5%ほど下がるなど音楽市場は必ずしも良い状況とはいえませんが、クラシックの名演奏を収録したSACDは意外なほど好調なのです。
もちろん、もともとクラシックは売れても数千枚というレベルですから、販売数量が劇的に増えているわけではありません。しかし、例えば昨年夏に紹介したエソテリックブランドのSACDは今や23タイトルを数え、それぞれ3000枚から4000枚をプレスして、すべて完売しました。2009年の年末に発売されたワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」全曲(サー・ゲオルグ・ショルティ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)などは、5万8000円もするのに限定1000セットが瞬く間に売り切れました。
SACDは、DVD-AUDIOとともに「次世代CD」と呼ばれました。CDを作ったソニーが1999年に立ち上げたのがSACD。それに対抗したのが東芝/松下電器産業(現・パナソニック)が中心になって開発したDVD-AUDIOです。どちらもCDのデジタルくささを止揚するという目的でしたが、結果としてCDのマルチビット方式を発展させハイレゾを実現したDVD-AUDIOは亡び、マルチビットを否定し、極限までアナログ的な処理を行う1ビット方式(DSD)を採用したSACDがサバイバルしました。いや、一度はほとんど滅亡に近いところまで行ったのです。
当初は、ソニーを始め、ユニバーサルやEMIなどもリリースしていましたが、プレーヤーの普及が思うように進まないことから、相次いで撤退。その流れを変えたのが、昨年5月からリリースを開始したユニバーサルの「シングルレイヤーSACD」です。2004年に一度は撤退したユニバーサルでしたが、今ではシングルレイヤーSACDを150タイトルまで増やすなど、内容・タイトルともに充実してきました。制作側は2度目のSACD参入なので、『これが最後のパッケージメディア』と思って徹底的に音質にこだわったといいます。いかに音質にこだわるかというと、マスターが良くなければ商品にしないそうです。
例えば、ビル・エバンス作品がリリース予定と発表されていましたたが、取り寄せたマスターがPCMだったので、再度DSDでのやり直しを本国に依頼したといいます。DSDマスター、もしくはアナログマスターのみで、PCMは受け付けないのです。技術的にも、人智の限りを尽くし、考え得る最高の音にするために、すべての努力を費やしたそうです。
それは……、
中でも圧倒的に音質に効くのは非圧縮の件です。ロスレスは符号は完璧に復元されるといっても、プロセスにリソースを費やすので、伸びやかさや余裕感が断然違うということです。
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