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脳汁どばどば──音楽“専用”PC「canarino1」をピュアオーディオ目線でチェックする14万円超のAtom PC+40万円のUSB-DACで聴く(1/2 ページ)

» 2011年08月04日 09時00分 公開
[野村ケンジ(撮影:矢野渉),ITmedia]
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本体より電源が大きい……音楽専用PC「canarino1」

photo オリオスペックが発売する音楽専用PC「canarino1」。OSレスの基本構成価格は13万9800円から。BTO対応で、ストレージ容量やプリインストールOS、USB-DACオプションなどをカスタマイズできる。写真右側が本体と電源ユニット、右側は視聴に使用した一例となる(製品には含まれない)Music Streamer IIとモニターヘッドフォン

 オリオスペックから発売された「canarino1」は、いわゆるミニマム&ファンレス静音仕様のショップブランドPCだ。ただ、狙うパフォーマンスの方向がこれまでのPCとはまったく違う。CPUや3D描画性能ではなく「最高クラスのPC音楽再生能力」を追求した、これまであまりなかった仕様を特徴としている。

 今回は、音楽専用PCがどれだけ「音」を気持ちよく聴かせてくれるか、ピュアオーディオ目線でチェックする。

 まずは外観から眺めよう。PC“本体”のサイズは、115(幅)×101(奥行き)×27(高さ)ミリ。PCとは思えない極小サイズで、例えるとよくあるポータブル無線LANルータほどである。

 ボディはアルミダイキャスト素材を採用する。その内部にミニノートPC/MID向けのAtom Z530(1.6GHz)+Intel US15Wチップセットを採用し、基本的なPCとしての性能はおおかたの予想通りのものとなる。ただ、このシステムの採用により小型化、低電圧化、低放熱化を実現し、アルミのボディ全体がヒートシンクとしての機能も兼ねる、物理動作する騒音源のないファンレス構造となっている。底面にはPCには似つかない、真鍮製のスパイクを装着する。ファンを廃した構造と合わせて、音質に影響を与えるとされる振動対策のためと思われる。


photophotophoto 本体はAtomプラットフォームを採用する超小型サイズ。底面にインシュレータが装着されている
photo 2.5インチのSSDを1基内蔵できる

 内蔵するストレージは、こちらも物理動作部品のない2.5インチのSSDだ。評価機は容量80Gバイトのインテル「X25-M」が装着されていたが、こちらはBTOで最大600Gバイト(プラス9万4500円)までのインテル「SSD 320」シリーズを選択できる。もちろん、普通のPCなので離れた場所にあるNASや(少々振動が影響する可能性は高まるが)USB接続の外付けHDDなどを活用することも可能だ。

 インタフェースは、グラフィックス出力用のHDMI(DVI変換アダプタも付属)、1000BASE-T準拠の有線LAN、IEEE802.11g準拠の無線LAN、USB 2.0×4(リア)、Mini USB×2(フロント)、miniSDカードスロット、光デジタル出力、ヘッドフォン出力×1、マイク入力×1、赤外線入力×1(フロント)を搭載する。無線LANは外付けのアンテナが付属する。

 音楽専用PCとしては、ヘッドフォン出力に加えて光デジタル(S/PDIF)出力とアナログ入力を兼ねたステレオミニプラグも用意されている。これだけの専用PCで音楽再生環境を構築するなら、それなりに高級志向のUSB-DAC(Digital to Analog Converter)機器の使用が推奨されるが、本体のみでも一般的なオーディオ機器との接続が可能となっている。

 そして、canarino1最大のポイントは電源ユニットだ。これまで述べていたPC本体とは「別」に存在する外付けの専用品となっている。よくあるPCのATX電源やノートPC用のACアダプタは、基本的にスイッチング電源と呼ぶもの。これらは電力の損失が少なく、高効率である半面、仕様上高周波のノイズが混入やすい特性もあり、音質──特に音のピュアさやダイナミックレンジの細やかさを追求するなら、悪い影響を及ぼすことになる。

photophotophoto canarino1最大のポイントとなる専用電源ユニットとPCOCC-Aケーブル

 それを回避するため、canarino1はでオーディオデザインのオーディオ用最高級DCアダプタ「DCA-12V」にカスタムを施した安定化電源を採用する(canarino1の電源は単体販売されていないが、参考までにDCA-12Vの単体価格は3万7800円だ)。こちらはノイズレベルを3uV(A)、電源用ICの10分の1、スイッチングレギュレータの100分の1まで押さえる能力を持ち、音質向上ための重要パーツとして超小型の本体に対して、圧倒的な存在感を放っている。

 同時に、PC本体と電源ユニットをつなぐケーブルには、伝送ロスが極めて少ない理由でオーディオ用として採用例が多い「PCOCC-Aケーブル」(高純度無酸素銅を単一結晶状としたPCOCCに、アニール処理を施したもの)を、さらにコネクタへの接合に音質に定評のある国産高品質ハンダを使用するなど、オーディオ業界でよく聞かれる素材を用いて構成されている。

 個人的に興味深いのは、やはり電源部である。これまでにもいくつかのオーディオ再生に適する(とメーカーがうたう)PCで試聴してきたが、いずれも“吊るし”の普通のPCよりは確かに良質な音だったものの、それが圧倒的な差があると感じたことはなかった。それらは電源部がある程度のボトルネックになっていたのではと推測する。この点canarino1はショップブランドの強みを生かし、PCメーカーではニッチすぎるため実現しにくいと思われる電源部までメスを入れている。

 電源ユニットは110(幅)×200(奥行き)×62(高さ)ミリで、外付け光学ドライブほどである。確かに本体より大きいが、よくあるミニタワークラスのデスクトップPCよりは省スペースに設置できるので、設置方法について困ることは少ないだろう(一応、どうせなら置く場所そのものはいつものPCより気をつけたいが)。


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