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米国でスマートテレビが流行る理由――CES総括(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/3 ページ)

» 2012年01月24日 18時27分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

1月10日から13日まで、恒例の「2012 International CES」が米ラスベガスで開催された。韓国勢の存在感が増したといわれる今年のCESだが、AV評論家・麻倉怜士氏はどう見たのだろうか。帰国したばかりの麻倉氏を訪ね、詳細を聞いた。

ソニーの「Crystal LED Display」と麻倉氏

――今年のCESは盛況だったそうですね

麻倉氏:今年のCESは、主催者発表で15万3000人が来場したそうです。2008年のリーマンショック後、来場者数が落ち込んでいたのですが、今年は史上最高の数字を記録しました。展示会場の印象では、中国を中心に海外からの来場者が増え、北米でもディーラーを中心に人が増えました。消費が戻ってきていることの現れだと思います。

 全体の傾向を見ると、まず米FordやGMなど車向けのソリューションが増えたことが今年の傾向として挙げられます。また大きな話題として、Microsoftが今年を最後に出展を取りやめることを明らかにしました。PCの世界からきて家電やパーソナルデバイスを取り込もうとしたMicrosoftですが、結局入り込めなかったことを象徴しています。

 AV分野では、大きく分けて3つのテーマがありました。1つは「スマートテレビ」という動きが本格化してきたこと。昨年は韓国Samsungなど一部のメーカーだけが目立っていましたが、今年はほとんどのメーカーを巻き込んだ動きになりました。また従来の低価格競争から、4K2Kに代表される“高付加価値路線”への転換など、市場をめぐる動きが1つのターニングポイントを迎えていること。そして韓国勢の有機ELやソニーの「Crystal LED Dispray」といった大画面の自発光ディスプレイが注目を集めました。まずはスマートテレビから解説していきましょう。

米国でスマートテレビが受け入れられる理由

麻倉氏:まずスマートテレビでは、Samsung、LG、パナソニックが似たコンセプトを掲げました。一方で「Google TV」は「Android Market」からアプリをダウンロードできる第2世代に入ったのが大きなトピックです。

Samsung、LG、パナソニックのブース

 そもそも、なぜスマートテレビが注目を集めているかといえば、北米市場ではテレビからネットに接続する人が実際に増えているからです。原因は、「Netflix」や「Hulu」のような動画配信サイトが低価格の月額課金制見放題サービスを展開していること。月に8〜10ドル程度で見たいビデオを好きなだけ見ることができるため、従来のレンタルビデオから急速に置き換わっています。テレビのネット接続率でいうと、以前はせいぜい10%程度だったのが、今では40〜50%にまで拡大しました。

LGのスマートテレビ

 もう1つ驚いたことに、米国の人々は毎日平均5時間もテレビを見ているそうです。ただし、地上波の番組は面白くないので、好きなコンテンツをオンデマンドで見る人が増えている。こうした状況や環境を考えると、ネット接続機能を持つテレビが話題になるのは当然のことでしょう。

 さらに米国では、テレビメーカーがネット接続を大々的に打ち出し、Blu-ray Discプレーヤーの位置づけまで変わってきています。BDプレーヤーというと、日本では“高画質のパッケージ作品を楽しむもの”というのが一般的な認識ですが、米国では“旧型テレビにネット接続機能を追加するためのセットトップボックス”になりつつあります。BDやDVDのディスク再生は、すでに“たくさんある機能の1つ”でしかありません。

 日本では、去年秋にパナソニックが「VIERA Connect」(ビエラ・コネクト)を発表しましたが、全く話題になっていません。以前からある「アクトビラ」も同様です。どちらかというとタブレットやスマートフォンで接続し、実際に動画を見るときにはDLNAでテレビに映しだすといった動きになっています。

 ITmediaの「スマートテレビ研究所」でも“スマートテレビ”の定義について、さまざまな意見が出てきましたが、今年のCESではっきりしてきたと思います。それは、ネットワークを介してサービスとコンテンツを集積するテレビ。まずネット接続があり、アプリをダウンロードして、ゲームやスカイプ、画像処理なども楽しめる。展示会場では、タブレットなど外部デバイスとの連携や、より簡単なリモコンやユーザーインタフェースの提案も増え、トータルでネット接続を楽しむテレビという形が見えてきました。

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