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インタビュー
» 2012年02月06日 16時34分 公開

ソニー「HMZ-T1」、“シアター画質”への道のり(2/3 ページ)

[芹澤隆徳,ITmedia]

 世の中にある部材から製品にあったものを広く探して選ぶのは、物作りとしてはむしろ普通の手順だが、最終的に最も身近であるはずのソニー製有機ELパネルに辿り着いたのが面白い。気づくのがちょっと遅い気もするが(失礼)、これには営業サイドも歓迎だった。

有機ELパネルの採用はユーザーにとっても大きな価値があるという森氏

 「商品の企画段階になると(営業など)ビジネスサイドの人間がチームに加わりますが、やはり有機ELで大画面というのものがなかったので皆ジレンマを感じていました。展示会や業務用では20インチクラスもありますが、それ以上に大きくなるとどうなるのか、とても関心がありましたし、ユーザーにとっても大きな価値になります」(森氏)。

 ソニーの半導体事業本部から届いた有機ELパネルは、0.5インチのXGA解像度だった。そこで開発チームは、「少なくとも0.7インチ、720p以上にしてほしい」と注文を出す。0.7インチというのは、水平視野角で45度を実現するために必要なサイズだ。

 「一般的にテレビの水平視野角は30度。しかしプロジェクターチームの研究で45度まで広げると視聴者の満足度が高いことが分かっていました。また米Dolbyが出したサラウンド関連の資料にも45度がベストポジションと書いてあります。もっと広げることもできますが、HMDの場合は視聴者が首を振って視野を動かすことはできません。楽に見ることができて、満足度の高い視野角ということで45度に決めたのです」。「20メートル先に750インチ」という虚像サイズを設定したのはその後だった。

20メートル先に750インチの秘密

 楢原氏によると、ヘッドマウントディスプレイはレンズの設計次第で虚像の位置が決まるため、比較的自由度は高いという。もちろんレンズが重くなりすぎてはいけないからバランスをとる必要はある。

 「プロジェクターチームと話をする中で、最近は“ホームシアターにプレミアム感がなくなっている”と指摘されました。彼らは、レンズの設計次第で遠くに出来るのだから、“本当の映画館の距離”にしたらどうか? と提案したのです」。

 そこからが大変だった。「映画館の座席からスクリーンまでの距離を知りたくても資料がありません。設計図を探してみても建築家のコピーライトがかかってて出てこない。しかしレンズ設計にゴーをかける期限も迫っていた時期だったので、実際に500席以上の大きな映画館に行って目視で確認しました。あちこちの席に座ってみたところ、プレミアム席の後ろにある席がいい具合だったので、“20メートル先に750インチ”に決めました」。

 次の課題はレンズだ。本来は複数の設定でレンズを作り、実際に試しながら決めるところだが、開発期間の都合もあって短期決戦になった。構造としては、企画当初にのぞき込んでいたビューファインダーと同じだが、一般的なファインダーの水平視野角は20度程度。45度の視野角を実現しようとすると、途端に難しくなるのは想像に難くない。

初期のプロトタイプでレンズ設計のシミュレーションを超える解像度が出て驚いたという楢原氏

 「最初に出てきたレンズは、覗いた時のわずかなズレで映像が見えなくなってしまうものでした。しかし、驚いたことにレンズ設計のシミュレーションを超える解像度が出ていました。焦点距離がシビアという一点を改善し、広げていけばOKだと思いました」(楢原氏)。

 45度の水平視野角と高いレンズ解像度を維持したまま、収差やひずみを抑えつつズレに対するマージンを拡大する。「映画館の体験をうたう以上、レンズはプロジェクター並みのひずみと収差に抑えなければなりません。実際、最初に見た産業用・軍事用のHMDは、上下が楕円形にひずんでいたり、中心意外はRGBにズレが出るなど、どれも画質的にはひどいもの。グラストロンはその点優秀でしたが、プロジェクターのエンジニアから見ると“まだまだ”らしいです」。

 難しい課題を前に、1つだけ妥協することになった。それは本体の重さだ。「メガネ型で快適に使うためには、100グラム以下にしなければなりません。すると当然レンズはプラスチックにしなければならず、画質は悪くなってしまいます」。軽くなったとしても製品コンセプトに反しては意味がない。このため自然と選択肢は絞られたという。

 そんな中、2011年1月の「International CES」が開幕する。出品したプロトタイプは、製品版(420グラム)の倍近い重量があり、設定もシビアだったが、コンセプトと画質は高く評価された。その手応えを得て開発はさらに加速する。「コンセプトは変えず、見え方の部分を追い込んでいきました」(森氏)。

「2011 International CES」に出品されたイメージ図とプロトタイプ(モデルは麻倉怜士氏)

 もう1つ、発熱の大きさも課題で、最初は筐体にフィン付きのヒートシンクをつけて冷やすほどだったという。しかし、熱対策のために消費電力を下げようと徹底的に回路を追い込んだところ、結果的に本体重量も減り、現在の420グラムに近づいた。

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