春から夏にかけ、各メーカーからAVアンプの新製品が登場する。今年のAVアンプは、ネットワークやハイレゾ音源への対応がトレンドになっているが、実は“音質”面でも従来機に比べて大きく変化した製品がいくつもあるという。AV評論家、麻倉怜士氏がチェックした。
――春から夏にかけて、多くのAVアンプが登場します。この時期はミドルレンジ以下の製品が多いのですが、今年のデキはいかがでしょう
麻倉氏:今年の春の新製品は、例年とは全く違い、非常に豊作です。ソニーを除く各社が新製品を発表しており、その多くをチェックしましたが、私の感覚でいうと、“従来機の倍くらい”は音が良くなりましたね。
基本的にAVアンプは春と秋の“二期作”で、多くのメーカーは春にエントリーからミドルレンジのモデル、秋にハイエンドモデルを発表しています。全体的な傾向としては価格低下(下位グレードへの買い下がりを含む)が激しいジャンルで、機能的にも音質的にも普及価格の製品が充実していますね。
――AVアンプは、2chアンプに比べて音が悪いといわれてきました。それはなぜでしょう
麻倉氏:AVアンプは、機能の充実が本当に著しい製品です。2chのアンプは基本的に“増幅”以外の機能は持っていませんが、AVアンプはマルチチャンネル対応の上に映像の回路も付いています。そのマルチチャンネルも5.1chから7.1chに主流が移り、最近では11.2chまで対応している製品も少なからずあります。ドルビーやDTSから新しいサラウンドフォーマットが出たら、いち早く対応しなければなりません。
最近でいえばネットワークオーディオへの対応も早かったですね。LINNのネットワークプレーヤー「DS」が出たのが2007年頃ですが、国内メーカーはネットワークプレーヤーを出す前にAVアンプがネットワークの受け口を持っていました。さらにアップルのAirPlayやPCオーディオの流れにも各社が対応、当初は96kHz/24bit対応だったのが、最近では192kHz/24bitになるなど、メーカーは盛り上がる市場に合わせてどんどん開発を進めなければなりません。映像のほうも最近は4K対応がトレンドで、パススルー対応も進んでいます。
AVアンプという製品は、オーディオとビジュアルにおける先進的な動きをすべて先取りして取り入れなければならない、メーカーにとっては大変な製品なのです。
このような状況で、メーカーは常に忙しく、ばたばたと開発しているのです。その結果、これまで犠牲になっていたのが音質で、いまひとつだったのです。もう1つの理由は内部レイアウト。スペースとコストの制約から大きなトランスやコンデンサーを使うことは難しく、製品の総コストに占める“音”の割合は、2chアンプなら100%ですが、AVアンプでそれはあり得ませんよね。というわけで、これまでのAVアンプの音は、同価格帯の2chアンプには及ばないものでした。
一方、AVアンプの歴史を振り返ると、そこに流れ込むメディアの質は大きく向上しています。ヤマハが「DSP-1」(デジタル・サラウンド・プロセッサー)でDSP(デジタル・シグナル・プロセッシング)を音場生成に使い、それをAVアンプに採用したのがおよそ20年前。そこからアクション映画など信号のコンテンツ別にシーンにふさわしい音場を作る方法が主流になりました。ソニーのように劇場の名前を冠した音場を作るといった具合にメーカーごとに異なりますが、基本的にLD(レーザーディスク)やDVDに収録されている音が“いまひとつ”だったため、それを音場的に改善しようというアプローチです。
しかし、時代が移り、HDオーディオのBlu-ray Discが入力されるようになると、メディアに収録されている“裸の音”でも勝負できる環境になってきました。音楽メディアでも、SACDやハイレゾ音源が出てきています。
それでもAVアンプは音質面にはなかなか力が入れられないというのが、これまでの状況でしたが、今年の新製品を見ると、新しい方向性が打ち出されたことが分かります。各社とも基本的な音質の改善に力を入れ、製品にも十分に反映されています。私も実際に耳で聴いて分かりました。
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