春から夏にかけて各社から登場するAVアンプは、普及価格帯のものが多い。しかし、その中にいくつか、昨年までとはまるで違う音が聞ける製品があったという。前回に続き、AV評論家、麻倉怜士氏が厳しくチェックした。
――前回のデノンは、オーディオ的な考え方を色濃く反映させることで基礎体力の向上を図った印象でしたが、ほかのメーカーはいかがでしょう
麻倉氏:オンキヨーが6月上旬に発売した7.1ch対応の「TX-NR818」もすごいです。
オンキヨーは「e-ONKYO」でハイレゾ音源を配信していることもあり、ドルビーTrueHDのマルチch音楽配信を受け取るアンプとして新製品が登場しました。そういう意味では、英LINNに近いアプローチですね。ハードウェアメーカーが音楽配信も手がけ、対応する機器を販売する。“囲い込み”というと言葉はあれですが、実際にTX-NR818の音を聴くと、大変すばらしいものでした。
AVアンプメーカーの多くは、B&Wの「800シリーズ」をリファレンスとしていて、音作りや試聴に使います。オンキヨーの場合は旧型の「801」。38センチウーファーを持つ本スピーカーは低音をうまく再生するのが難しいのですが、音がクリアで透明感、スピード感が速い。S/Nが良いのですね。またベースにもしっかりと弾力感があり、ボーカルもテクスチャーが“筋肉質”です。これまでのAVアンプより2chアンプに近いと思いました。ピュアといいますか、音場の見渡しが良く、解像度も高い印象です。
オンキヨーはこれまでもがんばっていましたが、今回は特に良いです。何が変わったのかといえば、「チャンネルデバイダー」(デジタル・プロセッシング・クロスオーバー・ネットワーク)が入ったことでしょう。スピーカーには、ユニットごとに適した帯域に分割するためのクロスオーバーネットワーク回路が入っています。通常はコイルとコンデンサーで構成され、ローパスフィルターあるいはハイパスフィルターとして利用していますが、シビアに見ると分割周波数の近くで“クロスオーバーひずみ”が発生することが多いのです。このため、オーディオマニアの世界では、プリアンプの次(パワーアンプとの間)に「チャンネルデバイダー」を入れることがあります。低域用と高域用の信号を作り、それぞれ専用のパワーアンプで駆動する仕組みです。チャンネルデバイダーは、アナログ時代にはけっこうあったのですが、デジタル時代に入ってから製品そのものがほとんどなくなり、あってもハイエンドの製品でした。
オンキヨーのTX-NR818では、DSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)の処理能力を使って高域と低域を分けます。本機は7chのパワーアンプを持っていますから、5.1chシステムならメインの2chに残りの2chを分割のために割り当てます。分割する周波数は14種から選択が可能。それを利用した場合と、従来の音(スピーカー側で帯域分割した音)聞き比べると、明らかに違います。スピーカーで分割したものは音の立ち上がりが鈍く、低域から高域にかけてのクリアヌスも落ちますが、チャンネルデバイダーを使うと音の透明度が高くなるのです。
ただし、B&Wの旧801ではアンプで分割した信号を十分に活用することはできません。バイワイヤリングにするとスピーカー側が持つネットワーク回路の影響から少し逃れますが、完全分離ではありません。内蔵のネットワーク回路をジャンプできるスピーカーなら、さらにすごい音が聴けると思います。オンキヨーも、秋にはそうしたスピーカーを発売するようです。
オンキヨーの方式、つまりDSPで帯域を分割する方式には、時間をずらすことができるメリットもあります。B&W 801の場合はあまり必要ないのですが、大きなスピーカーではユニット間に距離があり、ウーファーの発音位置が後ろのものがあります。その場合、高域の音をちょっと遅くすると同時に音が出て、場所による位相ひずみを小さくできる。音のにごりなどに効くのではないかと思います。
欲をいえば、チャンネル分割済みのプリアウトを設けてほしいものですね。そうすれば、手持ちのパワーアンプを使って、より良い音が聴けるのではないでしょうか。
それから、前回のデノン、今回のオンキヨー、この後取り上げるパイオニアにも言えることですが、ネットワーク経由(宅内LAN)の音がすごく良くなりましたね。これまでは、とりあえずそれなりに音が鳴っているというレベルでしたが、この春に登場した製品はひじょうに音質改善が進みました。主な理由は、ネットワーク対応のチップが新しくなったこと入り口(ネットワーク)と出口(アンプ)の両方の改善が効いています。それからドルビーTrueHDのマルチチャンネル音楽配信も魅力的でした。
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