筆者はこの30年ほどオーディオビジュアル業界の変遷をウォッチしているが、今年ほどテレビ市況の厳しさを痛感した年はなかった。地デジ本格移行後の予想を上回るマーケットの冷え込みと単価ダウン、収まる気配のない異常な円高による国際競争力の低下などの諸相にテレビ業界の不振の要因を求めることはできるが、一方でこの厳しい状況下においても、なるほど日本のテレビメーカーの底力は凄いと感心させられた製品も、もちろん存在する。
なかでも個人的に印象深かったのは、全録機能にクラウド・サービスを取り込み、星の数ほどある番組の中から何を観ればいいのかをオーナーに的確に教えてくれる東芝レグザの「Z7シリーズ」と、ソニーの84V型4K表示機「KD-84X9000」の2モデルである。前者は最先端の日本流スマート“テレビ”、後者は最先端の大画面高画質“ディスプレイ”としての魅力に満ちあふれた、2012年を象徴する製品といっていいだろう。
ここでは、じっくりとその画質をチェックする機会のあったKD-84X9000のインプレッションを述べたいと思う。
本機は4K2K(3840×2160ピクセル)解像度の液晶テレビ。LGディスプレイ(韓国)から供給された、視野角の広いIPSパネルが採用されている。上下左右に2枚ずつ計4枚の42V型フルHDパネルを連結させたパネルで、バックライトはパネル上下にLED を配したエッジライト方式。ローカルディミング(部分減光)や上下2分割のブリンキング処理も採用されている。
同じパネルを採用した他社製北米向け84V型機(わが国では発売されていないモデル)を隣において画質を見比べてみたが、その差は歴然。各種テストパターンをチェックしてみたが、ユニフォミティ(輝度の均一性)やホワイトバランスの安定感、動画解像度などで本機の優位性は明らか。ソニー技術陣に訊いてみると、パネルを細かくエリア別に分け(ローカルディミングに用いるエリアよりもずっと多いそうだ)、それぞれのエリアの輝度特性に合わせて最適なガンマカーブを設定し、パネル全体のユニフォミティを整えていったのだという。
いい絵を描くにはまず真っ白いカンバスを用意してから、ということなのだろう。供給されたパネルをそのまま使うのではなく、労を惜しまずソニー・クオリティーとして認めうるまでパネル性能を磨き上げた上で、絵づくりに着手する。このへんのきめ細かい仕事ぶりに日本メーカーならではの強いこだわりや美学、矜持(きょうじ)を感じるのはぼくだけだろうか。
実際に4Kディスプレイの最適視距離とされる1.5H(画面高の1.5倍)の位置まで近づいてさまざまなBlu-ray Discタイトルを観てみたが、なるほどよくしつけられた本機の高解像度大画面がもたらすインパクトは絶大だ。この近接視聴でも画素構造が認識できない829万画素の稠密さにも感心させられる。ぼくは自室で110インチスクリーンを用いたプロジェクター(JVCのDLA-X9)による大画面生活を実践しているが、プロジェクターの反射光による大画面と液晶テレビの直視型大画面とは明らかにテイストが異なる。後者はプロジェクター以上にハッとさせるインパクトを有しているように思えるのは、光のきらめきのパワーが異なるからだろうか。
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