麻倉氏:今年のデジカメ戦線は、ミラーレス一眼が好調に推移した一方、コンパクトデジカメはスマートフォンに市場をとられてしまいました。そうした状況で、圧倒的に高画質なコンパクトデジカメとして登場したのが、ソニーの「RX-1」とライカの「X2」です。
RX-1はクリアーで伸びやか、さすがソニーの最高級といえるものです。一方のライカは、精密さを感じるデザインや合理的なスイッチ配置といったハードウェアの魅力に加え、解像感が非常に高い。フルサイズではないのに、レンズ性能が高く、周辺部までとても細かいところまで非常に高い解像度で撮ることができます。
X2は、誰でも思いつくような機能で競争する製品ではありません。機能はあくまでシンプルで、使いやすさを重視。写す喜びを演出してくれるカメラです。機能面ではほかの製品に負ける場面も多く、仕事では使いにくい面もありますが、感性で映像を切り取るという写真の情緒的な部分では、圧倒的な表現力を持ったカメラといえます。私も夏にX2を手に入れたのですが、もう手放せません。
――いよいよベスト3の発表です。
麻倉氏:第3位には、ハイレゾ音源配信を挙げたいと思います。ユニバーサル・ミュージックの192KHz/24bit WAV配信に代表される、CDより遙かに音のよいハイレゾ音声がオーディオファンの間で話題になっています。
中でも今年、注目したのはWAVによる配信です。昨年までのハイレゾシーンでは、96kHz/24bitまでのFLACがデファクトスタンダードでした。しかし、今年は4月にNHKエンタープライスが初めて192kHz/24bitのWAV配信を行い、ユニバーサル・ミュージックもWAVを採用しました。FLACはメタデータが持てるため、機能的には良いのですが、現実的な音ではWAVに軍配が上がります。再生時におけるリソースの使い方が歴然とした音質差になって現れるからです。
WAVによる配信が広がりを見せていることは、音楽再生の歴史においても画期的なことです。これまでは、レコード会社が圧倒的に高音質なマスターを持ち、その劣化コピーを一般の人々に配布する形でした。しかし、これからはマスターとほとんど変わらない音質の音源を一般の人も手に入れることができます。「オーディオ・ホームシアター展2012」などの視聴イベントでビル・エヴァンスの「Waltz For Debby」をかけたところ、来場者の方々は皆驚いていました。聴いたことのある音楽なのに、全く新しい体験になる。「これまでの音源は何だったのか」と思うくらい違います。再生音源の歴史が大きく変わったと感じますね。
この流れは、レコード会社にとっても決して悪いことではありません。1つの高音質マスターを持っていれば、SACDやWAV配信、100% Pure Recordなどさまざまなメディアに使える、ワンソース・マルチユースの環境ができつつあります。ハイレゾ時代ならではの音源とメディアの関係を作ることができるのではないでしょうか。
麻倉氏:「アラビアのロレンス」は、1962年にデヴィッド・リーン監督が製作した戦争映画で、同年のアカデミー賞を独占しました。今年になって始めてBD化されました。
今回、フィルムの修復を手がけたのは、昨年の「山猫」と同じリストア専用プロダクションで、ソニー・ピクチャーズ傘下のカラー・ワークスです。マスターネガから8Kスキャンを行い、それを4Kに落としても情報量が多いので、画面を1/4ずつに分け、のべ100人が平行して作業を行ったといいます。1月にハリウッドを取材した際、カラー・ワークスで4Kマスターを見せてもらったのですが、従来のハイビジョンマスターと比べて、フルHDとVHSくらいの差がありました。
実は、私はMUSE方式(アナログハイビジョン)のLD(レーザーディスク)でハイビジョンの「アラビアのロレンス」を体験していますが、当時はあまり感銘を受けませんでした。かなり動画の解像度が低く、S/Nも悪かったからです。ちなみにMUSE LDは3枚組でした。
ところが、今回のBDを見て、オリジナルフィルムにはここまでのディティールがあったのかと、たいへん感動しました。BD化によって、「初めて全貌が明かされた」といえる画質です。また、メイキング映像もいかに監督がこだわって撮影したかが分かり、とても面白いです。画面の“作り込み”を鑑賞したい映画ですね。
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