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中国メーカーの躍進と日本メーカーの本気、4Kテレビ最新事情――CES総括(1)麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2013年01月31日 15時36分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

麻倉氏: 今回のCESでは、ハイセンスを中心に中国メーカーの“格”が上がった印象を受けました。例えば、メイン展示会場のLVCC(ラスベガス・コンベンション・センター)では、セントラルホールからサウスホールにつながるもっとも良い場所にハイセンスがブースを構えました。ここは、Intelブースの目の前。以前はMicrosoftが陣取っていた場所です。しかも、ブースのデザインや展示機も“ハイセンス”。4Kテレビのみならず、スマートテレビや3Dテレビも並べていましたよ。

中国Hisense(ハイセンス)のブースと4Kテレビ群。ブースのデザイン、展示機もけっこうハイセンスだったらしい

 さらにすごいのは、TCLやハイセンスが展示していた110インチの4Kパネルは中国製ということでしょう。サムスンが展示していた110V型も、実は中国のパネルメーカーが製造したパネルを採用しています。対して、日本製の液晶パネルはシャープのみ。ソニーはすべてLGディスプレイ製ですし、東芝も84V型はLG、65V型と58V型は台湾AOU製です。

――ちょっと寂しい状況ですね

麻倉氏: そうですね。ですが、日本と韓国のメーカーは、84V型はともかく、50V型台や60V型台の4Kテレビについては“おかざり”(技術力を示すための超高級モデル)ではなく、力を入れて販売していく方針です。

 ソニーに取材したところ、構造改革の一環として「シェアを追わない」方針を固めたそうです。数よりも質(金額)を重視し、2000ドル以上のテレビを積極的に販売しようとしています。今回、ソニーが北米向けに発表した4Kテレビは「XBR」という型番ですが、これは北米市場におけるソニーの歴代最高級製品に与えられる型番ですから、その本気度が伺えます。

 東芝も1インチあたり1万円を切る価格を目指すと“本気宣言”をしました。東芝デジタルプロダクツ&サービス社の深串方彦社長に話を聞く機会がありましたが、将来は展示した58V型より小さい画面サイズも狙いたいと話していました。一方の58V型以上では、4Kテレビが2013年度で40%、2014年度は70%、2015年度では90%に達すると予想しています。

 面白かったのは、東芝がCES開幕前のプレス説明会で示した「感動指数」という指標です。画面が小さければWXGA(1366×768ピクセル)やフルHD(1920×1080ピクセル)でもいいが、画面が大きくなると画素の粗さが目立ちはじめ、見る人の感動指数は低下するという話です。実はこれ、2006年のBlu-ray Disc登場時に私が提唱した「メディアによる感動度の変遷」にすごく似ています。

東芝の「感動指数」(左)と麻倉氏の「メディアによる感動度の変遷」(右)。確かに似ている

麻倉氏: 韓国メーカーの動きも活発化しています。LGでは、いよいよ4Kテレビの日本市場投入を検討し始めました。同社は昨年8月に韓国で4Kテレビを発売し、昨年秋の「IFA 2012」に84V型を出展したときは日本で販売する予定はないと話していたのですが、最近の感触でいえば、有機ELテレビ、4Kテレビともに国内販売が近づいた印象を受けます。ただ、CESの展示内容は日本メーカーと異なり、映像の美しさより、「Cinema 3D」(偏光方式の3D、パネルを4K化すればフルHD解像度の3D映像が視聴できる)や業務用のデジタルサイネージ、タッチパネル搭載といったアプリケーション(応用)をアピールしていました。

 より面白かったのはサムスンブースです。サムスンは、これまで4Kテレビをあまり大々的に展示していませんでした。昨年のCES、IFAともに70V型が1台あっただけ。しかも壁に埋め込む展示スタイルだったため、どのようなものか分かりませんでした。ところが今回のCESでは、ブースの入口に5台の4Kテレビを展示して、注力することを宣言した形になりました。逆に、IFAでは20台も展示していた有機ELテレビが減り、今回は55V型が3台、そして湾曲したフレキシブルタイプが1台だけでした。

 サムスンは昨年9月まで有機ELを戦略の中心に据えていましたが、歩留まりが向上せず発売時期が見えなくなってきたため、4Kにシフトしたようです。ブースの展示からは、急激に方針を転換した、という印象を受けました。

4Kコンテンツに対するアプローチの違い

――4Kのコンテンツ問題についてはいかがでしたか?

麻倉氏: 4Kコンテンツに対するアプローチでメーカー間の差を感じました。例えば他社に先駆けて4Kテレビに取り組んだ東芝は、コンテンツ問題が避けて通れないことをよく分かっています。そのため、最近は“4K”を全面プッシュするのではなく、「2Kがとてもキレイに見えるテレビ」と言っています。ハイビジョン映像のアップコンバートでも、質の高い超解像技術を組み合わせれば、大画面でも美しい映像を見ることができますから、あとは“売れる価格”にすれば、現時点では十分に4Kテレビの訴求になるでしょう。

 一方、ほかのメーカーは4Kのネイティブコンテンツをいかに家庭に届けるかを考えています。例えばHEVC(High Efficiency Video Coding)という高効率のビデオコーデックがあります。昨秋の「CEATEC JAPAN 2012」総括でも紹介しましたが、H.264の約6割という圧縮効率を持ち、同じ画質なら半分の伝送容量で配信できます。

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