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“クールジャパン”最前線、テレビ局のコンテンツ輸出に変化の兆し麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/3 ページ)

» 2013年05月14日 14時59分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

ネット配信でテレビ番組を売る

麻倉氏: もう1つ面白いのは流通経路の革新です。これまではテレビ局に売って、現地のテレビ局が使うという形でしたが、今注目されているのはネット配信で、先行しているのがテレビ東京。2009年に米国のcrunchroll(クランチロール)という会社と提携し、日本製アニメの米国におけるネット販売を開始しました。以前は海賊版や違法サイトが多くあったのですが、締め付けを強化するのではなく、逆に公式なものをファンのニーズに合った形で提供する方向で成功しました。

 例えば、クランチロールでは日本での放送から30分以内に英語字幕を付けたものをアップします。画質などもそのまま。そのかいがあり、2009年9月にスタートして3年(2012年9月)でテレ東コンテンツ会員は10万人を突破、さらに半年で倍の20万人まで増えました。その成功を元に、現在では同様の取り組みを中国や南米でも始めています。

 やはり大人も鑑賞できるアニメコンテンツは日本の強みであり、それを生かすためにネットをうまく使いました。この業界ではテレビ東京の動きに注目が集まっていて、日本テレビもクランチロールを使って日本製ドラマを米国で配信しようとしているようです。

 ただ、ドラマには難しい面もあります。国民性が合う地域は良いのですが、日本のドラマのテンポの遅さ、地域性、社会性がブレーキになっているのではないかという話があります。フランスの先進的な取り組みとして紹介されのが、国際合作にして現地で人気のあるキャストを使う取り組みです。例えばフランスとロシアが共同製作した「ラスプーチン」は、フランス人の俳優を起用して成功しました。

――確かに欧米のドラマやドキュメンタリーはテンポが速いです

麻倉氏: 日本人から見るとそうですね。NHKの方に聞いたのですが、以前NHKが国内向けのドキュメンタリーを“米国調”のテンポで制作・放送したところ、抗議が殺到したようです。そうした地域性の違いを吸収するという意味でも、やはり現地制作の「フォーマット輸出」に各局とも力を入れるようになっています。フォーマット輸出はバリアが低く、いわばアイデア勝負。番組のコンセプトや作り方など、番組作りのすべてを「バイブル」と呼ばれるノウハウ本に収めて輸出します。今後、日本の番組輸出において重要な役割を担うのではないでしょうか。

――先ほど「30人31脚」の例がありましたが、フォーマット輸出ではほかにも成功例があるのでしょうか

麻倉氏: たくさんあります。例えばフジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした」の人気コーナー「脳カベ」(迫り来る壁を頭を使ってすりぬけるゲーム)は、「Fall in the Wall」という米国のテレビ番組になりましたし、「料理の鉄人」は50ヵ国近くに輸出されています。NHKでは「おかあさんといっしょ」、TBSは「風雲!たけし城」「SASUKE」などをフォーマット輸出しています。

 ただ、これまで日本の放送局は各局バラバラに展開していました。幸か不幸か、日本は昔から“テレビ大国”であり、miptvにも長く参加しています。そのため、フジテレビやTBSは展示会場の一番良い場所にブースを構えていますが、それ以外の放送局は離れた場所にあったりと、先発と後発で差が付いている状況です。

 一方、中国や韓国は放送局単位ではありません。国が奨励して各国に進出するため、例えばブース代や見本のローカライズ費用を援助するなど、国を挙げて取り組んでいます。miptvの展示会場は、特定の場所がまるで“中国館”のようになっていましたし、50周年記念の夕食会も中国のドキュメンタリー放送局CCTVがスポンサーになるなど、中国の存在感が大きくなっていることが印象的でした。

CCTVの看板(左)。中国系テレビ局の商談風景(右)

――日本の放送局には不利な状況になりつつあるのでしょうか

麻倉氏: 前回まではそのような雰囲気だったのですが、今回は日本もがんばりました。国際的に番組を売り買いするということは、つまり「文化輸出」です。日本でもここ数年、経産省や文化庁を中心に「クールジャパン」を推進していますが、今年は現地で官民合同による発表会「Treasure Box Japan」が行われ、それが好評でした。これまでにはないエポックメイキングな出来事です。

「Treasure Box Japan」の様子

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