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パナソニック「TH-P55VT60」が見せたプラズマの“熟成画質”、MGVCもチェック山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(1/2 ページ)

» 2013年05月24日 15時42分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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 ここ数年、深刻なAVビジネスの不調が伝えられ、2012年度決算で7000億円の赤字を発表したパナソニック。その最大の戦犯はテレビ事業、それゆえ巨額の投資を続けてきたプラズマテレビからは撤退か? などと喧しいマスコミ報道が続いていることは、読者のみなさん先刻ご承知だろう。

 確かに国内で、というか世界を見回してもプラズマテレビを積極的に手がけるのは、パナソニックほぼ1社になってしまい、アジアの新興国から次々に安価な製品が登場してくる液晶テレビとは大きく事情が異なるのは紛れもない事実。しかし、2008年に発売された最後の「KURO」、パイオニアの50型モニターをいまだ使い続ける筆者は、今なお「画質はプラズマ!」という思いを捨てることができない。

55V型の「TH-P55VT60」

 ソニーから登場した4K液晶テレビ「X9200Aシリーズ」の超高精細画質を見ると、少し揺れ動く気持もないではないが、リッチな色再現や視野角の広さ、動きに対する追随性、コントラストの確かさ、とくにつややかな黒の表現など画質総合力において、よくできたプラズマテレビをしのぐ液晶テレビは今なお存在しないと確信する。

 次世代ディスプレイ・デバイスとして期待の大きい有機EL(OELD)は量産技術で苦しんでいるようだが、実際それが解決して潤沢に製品が市場に出回るようになったとしても、現行プラズマテレビの熟成画質を乗り越えるには、それなりの時間が必要だろうと試作機を見て思う。

 パナソニックのテレビ開発・企画・販売の現場もきっと同じ気持なのだろう。この夏、さまざまな外野のノイズを吹き飛ばすかのような、素晴らしい画質のプラズマテレビを登場させた。「VIERA 最高画質」をうたう「VT60シリーズ」である。今回の連載では、その映像をチェックする機会を得た55V型の「TH-P55VT60」にフォーカスを当ててみたい。

 本シリーズは「スマートVIERA」というキャッチフレーズの下、顔認識機能や音声リモコン機能などを新設し、ネット動画との親和性を高めたり、電子タッチペンによるお絵描き機能を盛り込んだりと、新しいホームエンタテインメント・ディスプレイ像の構築に意が注がれている。売りの現場では、まずそのへんがアピールポイントになるのだろうが、読者のみなさんにぜひ注目していただきたいのが、「VIERA 最高画質」、いや「プラズマテレビ歴代最高画質」と思えるVT60シリーズの素晴らしい映像美である。

 本機のパネル解像度は今話題の4Kではなく、フルHD(1920×1080ピクセル)だ。しかし、ハイビジョンの推奨視距離である3H(画面高の3倍)の位置で見るかぎり、実は4Kテレビに対して精細度が大きく劣るという印象はない(筆者の視力は近視矯正用メガネをかけて約1.0)。さすがに4Kディスプレイの推奨視距離である1.5Hまでにじり寄ってみると、フルHD機のTH-P55VT60は、画素構造が認識できたり、ジャギー(斜め線のギザギザ)が気になりはするが、果して日常的にここまでテレビに近づいて観る方がどれほどいるのだろうという疑問がないではない。

色再現域

 そして、昨年の「VT5シリーズ」に比べて明らかによくなっていると実感できるのが、色再現と階調表現だ。色については、RGBの3原色のうちR(赤色)に新しい蛍光体を採用、色域をいっそう広げている。色分布特性のよくない白色LEDにフィルターを組み合わせてフルカラーを生み出す液晶テレビに比べて、自発光のプラズマはもともと色域が断然広いわけだが、今回の新赤色蛍光体の採用でその色の魅力がいっそう高まった印象だ。また、パナソニックのプラズマテレビに長年採用されてきた「ハリウッドカラーリマスター」を“入”にすれば、デジタルシネマの標準色域であるDCIをほぼカバーできるという(98%)。ソニーからx.v.colorのプロセスを用いてDCI色域をカバーしようという「トリルミナスカラー」の提案があったが、考えてみれば、パナソニックのプラズマテレビはずいぶん前から「ハリウッドカラーリマスター」でそれを実現していたわけだ。

まるで画面がぽっかりと空間に浮かんでいるかのようなデザイン。画面全体を1枚ガラスで仕上げ、V字型スタンドを支える台座にはアルミ材を採用している

 階調表現については、パネル材料の変更と新しい駆動法を採用することで、1フレームの画像を構成するサブフィールドの枚数を10枚から11枚に増やすことに成功しており、VT5シリーズに比べて階調表現力を約1.2倍向上させたという。さらにこの新しい駆動制御はとうぜん動画応答性の改善にも効いており、速いパンニングが用いられた映画や人物が細かく動くスポーツ番組などを見ても、より安心して楽しめるようになった印象だ。

 加えて本シリーズの採用された最新の映像処理システム「ファインリマスターエンジン」の進化も、あらゆるプログラムソースの高画質化に寄与している。3万パターンにも及ぶデータベースを蓄積し、それを基に超解像処理を行うこのエンジン、フルHD放送やBlu-ray Discはもとより、地上デジタル放送、ネット動画などでも効果を発揮するという。低画質のネット動画などをじっくりチェックしたわけではないが、地デジでは確かにキレのよい高画質効果が実感できた。

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