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パッケージメディアの逆襲(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/3 ページ)

» 2013年08月23日 14時00分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

高音質CDに再び脚光、「Blu-Spec CD2」に「プラチナSHM」

 高音質CDも再び盛り上がってきました。CD高音質化の歴史をさかのぼると、まず1990年代前半にマスタリング工程や材質を変えるといった話がありました。アルミの反射層を金に変えた「ゴールドシリーズ」、2000年代にはガラス素材を使ったCDも登場しています。そして2008年頃から、SHM-CDやBlu-Spec CDなどが登場してブームになりました。

2008〜2009年頃に「SHM-CD」や「Blu-spec CD」「HQ-CD」といった高品位ディスクが相次いで登場した

 ハイレゾ配信の登場などもあり、一時期は下火になっていたのですが、ここへきて、もう1度高音質CDに脚光が当たりはじめました。半年ほど前に登場したBlu-Spec CD2は、CDよりもはるかにハイクラスなBDのカッティング技術を生かしたもので、最近、1980年代初期の松田聖子さんのタイトルも出ましたので、さっそく比較してみました。1988年5月に購入した「CITORON」の10曲目「林檎酒の日々」です。冒頭のピアノがいまひとつ明瞭(めいりょう)ではないですね。ヴォーカルの実体感、ニュアンス感がやや平板。ピアノの響きが細身でした。

 では、Blu-spec CD2はどうでしょうか。

 凄く違います。冒頭のピアノは、実は直接音の後に、豊かなグラテーションを伴いながら、響きが立ち上り、立ち下がっているのだと、初めて認識できまし。和音の強弱の付け方も生々しい。ヴォーカルはまるで違います。感情が豊かで、些細なニュアンスが、リアルな実体感を伴い迫ってきます。オーディオ的にかなり違うだけでなく、音楽性がまるで違うと聴きました。

 もう1つはユニバーサル ミュージックとビクタークリエイティブメディアが発表した「プラチナSHM」です。EMIを吸収して世界一のレコード会社になったユニバーサルですが、とくに日本のユニバーサル・ジャパンは技術志向。SHM-CD、シングルレイヤーのSACDや、DSDマスターを使ったアナログレコード「100% Pure LP」などを作ったことでも知られていますが、「音源により近づける音楽体験をユーザーに提供しよう」という考え方が顕著です。こうした企業努力も、CDやレコードを聞き続ける人がいる要因の1つでしょう。

 その第3弾といえるのが「プラチナSHM」。ビクター・クリエイティブ・メディアとユニバーサル・ミュージックとの共同開発になるものです。これまでのCDの高音質化は「ベールをはいだような」というより、解像度と透明感が上がる傾向でしたが、今回はそれに加えてアーティストのスピリットを感じるくらい楽曲に入り込めます。先日、私が定期的に試聴イベントを開催している「ビックロ」で3種類のCD(普通のCD、アルミ反射膜のCD、プラチナSHM)を聞き比べたのですが、プラチナSHMになったとたん、会場の雰囲気がガラリと変わりました。そのあと、参加者の方が「こんなにすごいのは初めて」とTwitterでつぶやいていました。

――プラチナSHMは、どのような仕組みですか?

ターコイズ・ブルーのレーベル面を持つプラチナSHM

 プラチナSHMには主に3つの技術が使われています。1つめは純プラチナの反射膜。純プラチナ「Pt1000」は、粒子が非常に細かく、表面を極めて平滑に形成できるうえ、ピットのエッジも滑らかになるため、レーザーを当てたときに発生する迷光が少ないのです。JVCケンウッドの久里浜研究所ではプラチナ蒸着膜を使った計測実験を継続的に行っています。それ自体は音楽との関係はないのですが、ビクター・クリエイティブ・メディアの担当者は、「JVCケンウッドの久里浜の研究所ではミクロレベルの対象物を電子顕微鏡で忠実に撮影するためにプラチナ微粒子薄膜を以前から使っていました。そこで、プラチナの音の良さを調べたところ、ピットを正確に、かつ表面を平滑に形成するきめ細かい表面特性が要因と分かりました」と話していました。以前のSHM-CDもビクターが開発したものですから、高音質CDの原点はビクターといえるかもしれません。

 2つめは、ターコイズ・ブルーにコートされたレーベル面です。SACDシングルレイヤーのとき、盤面をグリーンにした『音匠仕様』がありましたよね。それを今回はターコイズブルーにしました。なぜ青かというと、レーザー光の補色に近い色ため、回りからの迷光がディスクに侵入することを防ぐという目的です。これに3つめの技術として、176.4kHz/24bitのハイビットサンプリングでダイレクトにカッティングを行う「HRカッティング」技術を組み合わせています。

 今回、ザ・ローリング・ストーンズやスティービー・ワンダーなど10タイトルが発売され、10月には第2弾としてクラシック系も登場します。プラチナSHMを聴くと、音の出方がゴージャス。情報量が増し、微細な間接音も聞こえてきます。情感に訴える、生っぽい音になるのです。ビックロのイベントに参加した方が「44.1kHz CDの最終形」と書いていましたが、その通りかもしれません。

――プラチナSHMは、CDではないと聞きました

 そうです。プラチナSHMは、反射率の点でCD-DA規格のレッドブックを満たしていないため「CD」とうたうことはできません。しかし、実際にはほとんどのCDプレーヤーで再生できます。同社によると、SACD登場以前のプレーヤーでは読めない可能性があるものの、ハイブリッドSACDのCD層が読めるプレーヤーであれば問題ないということです。そのCD層は反射率が低いですからね。

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