バランスの整った食生活は健康の増進に役立つ。しかしながらなかなかそうならないのが世の常、お肉は好きだけど野菜は苦手という輩(やから)がぼくの周りにも多い。中でも緑黄色野菜のニンジンやピーマンはその代表格かなぁ。栄養価も高いしベータカロチンが癌細胞を抑制するという効果があるのにねぇ、どうして嫌いなんでしょ。
小さくて凝縮感がある物の第2弾は、Carot One(キャロットワン)の「ERNESTOLONE」(エルネストローネ)である。前々回で紹介したフォステクスのスピーカーよりもっと小さくてもっと軽いけど、とても可愛らしいことも気になる要素だ。しかもこれでアンプだというのだからおったまげる。サイズから想像すればスピーカーを駆動するというより、ヘッドフォン用。まぁ、それなら理解できなくもないが、そうでないところに作り手の大胆な発想がある。
その大胆な発想とは、クラスD増幅のデジタルアンプと真空管という、まるで異種格闘技のような対極のコラボーレーションに現れている。立方体のシャーシというかボディーの上にちょこんと乗っかっている真空管が、このアンプの“顔”でもあり、最終的な味付け、あるいは“塩の一振り”となる部分だ。
名前は「6DJ8」。真空管アンプ全盛時代に活躍した通信用の双三極管である。真空管はソリッドステートと違ってヒーターを熱しないと電子が飛ばない。だからホットだ。当然このアンプに使われている真空管のヒーターも温めて使うが、プレートにかけられた電圧はわずか12ボルト。えぇ? こんな電圧で電子が飛ぶのと思ったけれど、立派にその役割を果たしている。もっともこの真空管の適正プレート電圧は90ボルト前後だから、こんな安全運転なら半永久的に使えるという超長寿命設計である。
キャロットワンは2009年、イタリアのナポリで誕生したまだ若い会社だ。主宰者のアントニオ・シアロは40代後半、ということは当然ながらポスト真空管世代だ。それなのにこうした製品が生まれた背景には、デバイスとしての面白さとアイキャッチャーとしてのインパクトが真空管にあるからだろう。ノスタルジーを感じるのはおじさんだけで、今の青少年にとっても真空管は新鮮でスタイリッシュな存在なのかもしれない。
さらに付け加えると、Carot Oneというブランド名は彼の友人がつけてくれたものだという。イタリアでは“細くてのっぽの人”のことを親しみを込めて「Carot One」と呼ぶんだそうだ。キャロットはもちろんニンジン、ワンはイタリア語で「オーネ」と発音し、“大きな”という意味である。そして決定的だったのは、アントニオ・シアロの毛の色がオレンジだったから。この製品以外のモデル名にも友人やら母親の名前が登場するというから、何とも微笑ましい限りだ。
「ERNESTOLONE」(エルネストローネ)は、前作の「ERNESTOLO」(エルネストーロ)より一回り大きい。そして「エルネスト」もまた彼の友人の名前である。そしてその後に続く「オーロ」は白雪姫に登場する小人のことで、ここではその仕事ぶりから小さな巨人を現している。だからエルネストローネを見くびっていたぼくは、その音の振る舞いに驚かされてしまった。
試聴にはユニットのコーンがオレンジ色がかっているKEFの「LS50」を使った。ブックシェルフ型だが、どう見てもエルネストーロとは大きさ的に釣り合いが取れない。にもかかわらずやってくれるではありませんか。思いのほかという形容ではまかないきれない、その鳴らせっぷり方にびっくりである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR