ペトゥラ・クラークのCDアルバム「ロスト・イン・ユー」から1964年の大ヒット曲「ダウンタウン」のセルフカバー・バージョンを聴いてみた。デビュー当時のオリジナルとは一味もふた味も違う、スローバラード調にアレンジされたこの曲は落ち着きがあり、彼女のボーカルを丁寧に捉えて聴きごたえも十分。さすがに大出力アンプのようなこれでもかという凄味は出ないが、定格出力25ワットの割にはドライブ能力があり、バランスも良いし低域の表現も必要にして十分。ブーストしたり色付けをおこなったりという妙な小細工がなく、素直なのでボーカルにつけられたリバーブがきれいに消えていく感じも心地よい。
エルネストローネは、前作のエルネストーロと同じく、二階建て構造で上のボックスに真空管、下の建屋にDクラスアンプが配置されている。真空管のソケットの中央部にはブルーのLEDがセットされ、あやしく輝く。また真空管のヒートアップが完了し正常な動作状態になるとパイロットランプがブルーに光る。この辺りの待たされ感も真空管を使ったアンプらしい部分だ。
日頃は省エネを実践しても、ことオーディオになるとエコよりエゴだ、趣味の世界だけは自由にさせてくれと、時流に抗する発言をしていたぼくも、エルネストローネを聴いて少し反省した。モデル名通りの小さな巨人には考え直させられるところがいっぱいあったというわけである。
リモコンもなく、アナログっぽい手元型のアンプだが、電気代を気にせず楽しめるから、深夜にゆったりとCDを聴くのにこれほど最適なモデルもないと思う。USB-DACも備えているから96kHz/24bitのハイレゾ音源にも対応する。さらにヘッドフォン用に別建てのアンプが用意されているという凝りようにも感心させられた。そしてもうひとつ、本体スペックとは関係ないことだが、コンパクトなのに入力端子やスピーカーの出力端子が特殊な形状ではなく、標準品が使われていることもうれしかった。当たり前のようだが、これって意外と大切なことなのである。
実のところ、ぼくも子供のころ、ニンジンはあまり好きじゃなかった。甘ったるくて少し苦い、なんというかお薬みたいな味にいまひとつなじまなかったけど、エルネストローネのサウンドのように美味だったら、もっと早くから食べられるようになっていただろうなと思う。それでは栄養たっぷりのサウンドとともに、今夜はどんな音楽をこのアンプに奏でてもらいましょうかね。
オーディオ・ビジュアル評論家・音響監督。オーディオ・ビジュアル専門誌をはじめ情報誌、音楽誌など幅広い執筆活動を行う一方、音響監督として劇場公開映画やCDソフトの制作・演出にも携わる。ハリウッドの映画関係者との親交も深く制作現場の情報にも詳しい。またイベントでのていねいで分かりやすいトークとユーザーとのコミュニケーションを大切にする姿勢が多くのファンの支持を得ている。
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