一時期と異なり、最近はテレビやプロジェクターの発表会で3D機能について語られることが少なくなった。Blu-ray 3Dのコンテンツも思うようには増えず、寂しい思いをしているファンも多いのではないだろうか。しかし、AV評論家・麻倉怜士氏によると、3Dは映像のリアリティーを増す表現手法の1つとして磨かれ続けているという。先日発表された第3回「ルミエール・ジャパン・アワード2013」と、その受賞作品について解説してもらおう。
――「ルミエール・ジャパン・アワード2013」とは、どのようなアワードでしょうか
麻倉氏: 国際3D協会日本部会(I3DS-J)が主催する国内の3D作品に特化したアワードで、今年で3回目を迎えました。3D作品を世の中に広く知らしめるとともに、制作者のモチベーションを高め、国内の3Dコンテンツ制作を後推しすることが目的です。対象作品は日本で制作された3Dタイトルに限られています。
私は、まだ3Dが注目を集めていた2011年から審査に参加していますが、これが大仕事です。数名のAV評論家と十数名のプロダクションの専門家が天王洲にあるパナソニックのシアタースペースに来て、ノミネート作品を視聴するのですが、クリエイター側には“作品は全体で見てほしい”という要望があるので、全審査員が30作品を最初から最後まで見るのです。大変でしたね。
審査項目は多岐に渡ります。立体視の必然性――つまり立体視するのに適した被写体を選んでいるか、視聴者の目に負担を与えないか、3Dならではの視覚効果にチャレンジしているか、市場を拡大する試みが入っているか。また作品性やストーリー性といった項目もあり、全6項目を7段階で評価していきます。
――今年のノミネート作はどうでしたか?
麻倉氏: ここへ来てコンテンツとしての力が上がってきたと感じています。以前は極端な“飛び出し”や不自然な立体感も多かったのですが、最近では目の負担を減らしつつ、とても面白い切り口で作品を作るケースが増えてきました。また、以前に比べると“2D-3D変換”の作品も自然になってきたと感じます。受賞作品の中からいくつかピックアップして紹介しましょう。
麻倉氏: まず「特別賞」を受賞した「ドリームキャッチャー」です。オリンパスの映像子会社が「ニンテンドー3DS」のために作成した5分程度の短いビデオクリップで、人間を紙飛行機に見立てた面白い作品です。紙飛行機は、途中でさまざま困難に遭いながら、パートナーを見つけて2機になり、さらに山の中の目的地を目指して飛んでいくというストーリーです。
画面は小さいのですが、森の中を飛びまわるダイナミックな飛翔感など、見ていてとても気持ちの良い3D映像でした。ストーリーと3D効果が密接に関係していて、とくに奥行き方向の表現で3Dらしさが出ていました。風や障害物など、困難が襲ってくると、思わず「頑張れ!」と応援してしまうのが、インボルヴ力の強い3Dの力でしょう。それはニンテンドー3DSの小さな画面でもとても有効だと思いました。
麻倉氏: 「アニメーション/VFX部門」の「作品賞」を受賞した「Present For You」(プレゼントフォーユー)は、ソニーPCLが出品した劇場用3D映画です。新橋か有楽町あたりの、どこか懐かしさを感じる街が舞台で、オダギリジョー演じる始末屋のもとに“生きたプレゼント”が届くという、ちょっとブラックなストーリーです。
面白いのは、俳優が演じる実写映像と、その俳優にそっくりなパペット(人形)が演じる3D CGアニメーションが交錯しながら物語が描かれていくこと。パペットとジオラマ(ミニチュア)の世界でも物語が展開していくので、現実離れした二重、三重のファンタジーが体験できます。
映像は光の表現が実にユニーク。限られた空間の中、照明を巧みに使って手前と奥の区別を付けていました。また被写体の垂直軸がレンズの光軸と直交しないアングルにすること(=光と反射の関係が普通ではない)による通常とは違う“違和感のある映像”もたいへん面白いです。
制作にはかなりの年数を掛けたいうことです。もともと2D作品として考えていたのが、3Dブームがきたので3Dに挑戦したそうです。世界的に見ても非常に珍しい、実験的な映像作品となりました。2014年に劇場公開される予定です。
麻倉氏: 「ドキュメント/ライブ部門」で「作品賞」を受賞したのが、デジタルシネマ上映館の“ODS”(other digital stuff:映画館で上映する映画以外のコンテンツ)として上映された「ワールドプロレスリング3D第6弾 1.4東京ドーム2013」です。
実は、プロレスは3D映像の中でも人気のあるコンテンツです。事実、私が「ルミエール・ジャパン・アワード」の審査でプロレス作品を見るのは2回目です。なぜかといえば、3Dは遠方が苦手だからです。野球やサッカーなどはスポーツは被写体までの距離が遠く、あまり立体感は出ません。望遠でアップしてもだめです。一方、相撲やレスリングなど、広角レンズによる近接撮影の格闘技はとても“3D向き”なのです。
筋骨隆々としたレスラーがロープ際で組み合っているシーンなどでは、筋肉の躍動まで立体的に見え、臨場感が凄いです。つまり、立体空間にある各オブジェクトがそれぞれに立体感が持っているということ。さらに大きいのはロープの存在です。手前にロープがあるため、奥行き感も際立つのです。
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