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日テレの「Hulu」取得を“囲い込みではない”と考える理由本田雅一のTV Style(1/2 ページ)

» 2014年02月28日 21時28分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 米国発の定額制動画配信サービス「Hulu」が、日本での事業を日本テレビ放送網に譲渡することが発表され、さまざまな憶測や驚きの声があがっている。ITmediaでも報じているが、一方で”なるほど”と膝を打っている読者も少なくないのではないだろうか。

定額制動画配信サービス「Hulu」

 ネット上での議論を見ていると、NHKやTBS、テレビ東京の番組配信も手がけるHuluが日テレに買収されることへの懸念の声が挙がっている。しかし、これがテレビ局関係者となると話は違っており、民放各局のネットワークサービス事業あるいは番組編成の担当たちは、驚きつつも意外に落ち着いている。

 というのも、日テレがHuluを買収した意図は、「映像配信インフラとしてのHuluを独占することにはない」ことが周知されはじめているからだ。将来、各局がどのように反応していくかは、もちろん現時点では分からないが、日テレ側で”コンテンツの入り口”を塞ぐことはないだろう。

 なぜなら、日本市場におけるHuluの最大の武器は、入り口ではなく”コンテンツの出口”にあるからだ。ご存知のようにHuluはテレビ、BDプレーヤー/レコーダー、ゲーム機、スマートフォン、タブレット、それにPCでも視聴できる。

Huluは、スマートフォンやタブレット、ゲーム機など、幅広い端末で視聴できる

 これだけ幅広い機器に視聴機能が組み込まれているサービスは、日本に限ってみると他には存在しない。今後のことを考えても、北米で多くの視聴者がいるHuluを組み込まずにネットワーク対応映像機器を作るとは考えにくい。つまり、今後登場してくる新製品も含め、Huluならば接続できる可能性が高い。

 こうした”コンテンツの出口としての価値”を最大限に生かすのであれば、コンテンツの入り口を絞っていてはお話にならない。放送局が使いやすい、またテレビ以外のデバイスとの接続性の高さが確保されているHuluを確保し、他局をや独立系の映像制作会社なども巻き込んだ映像配信基盤に育てたいという意図があるようだ。

 一方のHuluは北米を含め事業展開の方向性に行き詰まりがあった。今回は日本での事業を売却という話だが、米国の本体も事業売却をずっと模索してきた。背景には他の映像配信事業者と比較しての伸び悩みがある。

 映像配信サービスとしてのHuluは、映画会社主体で始まった「Vudu」、映像ソフトのレンタルに起源を持つ「Netflix」とは異なり、”テレビ放送のネット配信対応”を強く意識したサービスだ。ご存知の方も多いだろうが、NBC Universal、Fox Entertainment、Disney-ABC Televisionなどが大手株主として参画している。

 加入者数も大きく違う。Netflixが4400万人以上の契約者を持つのに対し、Huluの有料サービスであるHulu Plusの契約者は500万人に留まる。さまざまな理由があるが、Huluが元々は無料配信+有料配信の組み合わせで始まっている点は大きな違いだ(日本では有料配信のみ)。

 北米ではDVD/Blu-ray Discのパッケージ販売ビジネスが(縮小しているとはいえ)いまだ大きく、レンタル業は崩壊しているといわれる。確かに店舗型のDVDレンタル市場はなくなったが、ネットDVDレンタルとネット配信を組み合わせた「Netflix」や、自動販売機型のDVDレンタルサービスである「RedBox」が人気を集めているように、まだまだ物理メディアへの要求は小さくない。

 そこをうまくバランスを取りながら成長してきたのがNetflixだが、Huluは”放送”との差異化が難しく無料サービスと有料サービスのバランスを取るのに苦労してきた。”この映像が観たい”と指名して借りるコンテンツはNetflixが強く、テレビ放送に近いコンテンツはそもそもテレビ放送の受信で事足りる面もある。

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