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変えようとして変わらなかった奇跡の羽根――バルミューダ「GreenFan Japan」の真の価値滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(1/4 ページ)

» 2014年05月19日 13時47分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

 1893年にアメリカのウェスティングハウスがモーターにスクリューを取り付けて回すことから始まった扇風機。その1年後の1894年、この日本でも“国産第一号機”となる扇風機を芝浦製作所(現・東芝)が開発する。それから約100年以上、約一世紀もの間、さまざまなメーカーが扇風機を生み出したにも関わらず、基本構造は一切変わらなかった。だが、それらの扇風機は決して完成しているものではなく、むしろ“風に当たり続ける”ことで疲労感を覚えるような未完成だったものを人間が受け入れている図式だった。


 一方、2010年にバルミューダ(当時はバルミューダデザイン)が、それまでこれ以上の進化は望めないと思われていた扇風機をもう一度見つめ直し、風の質を根本からデザインし直したことで、“心地良い自然の風”を吹かせる初代「GreenFan」の開発に成功。それが市場で圧倒的な評価を受け、当時3万3800円という、扇風機としては高価格だったにも関わらず、初年度で1万2000台もの販売を記録。他社をフォロワーとして牽引するとともに、高級扇風機市場を作り出した。

 寺尾氏は、当時のことをこう振り返る。

 「従来の扇風機は、風が人工的なので、結局、長くあたり続けられず、首振り機能を使わざるを得ませんでした。そうすると、風が届くのが一瞬になってしまい、結局涼しさを得ようとしても得続けることはできません。そこで私たちは、風を使って、最終的に“理想的な涼しさ”を提供しなければいけないと思いました」(寺尾氏)。

バルミューダの寺尾玄社長(左)と2010年に発売された初代「GreenFan」(右)

 では、涼しくて良い風とはどのような風か。当時、多くの人に“自然の風と扇風機の風どっちが気持ちいい?”と質問したところ、例外なく“自然の風”という答が返ってきたという。「ということは、扇風機から自然の風が出てくればいいのではないのかと気づいたわけです」(同氏)。

 涼しさを得るのならエアコンのが手っ取り早いじゃないか、という人もいるかもしれない。「確かにその通りですが、今後はエネルギーの調達が困難になる時代がくるかも知れません。その時、エアコンよりも省電力で自然な涼しさが得られる扇風機のほうがメリットは大きいと思ったのです。現在でも先進国以外では、エアコンを使えないという地域がほとんど。世界の多くの人たちが同じ理由で困っているのであれば、それを解決する1個の機械を作れば、皆に必要とされて多くの人に使ってもらえるでしょう」。

 ビジネスモデルとしても非常に分かりやすい。寺尾氏は、戦後の日本がそうだったように、洗濯機やテレビなど「皆が必要とするもの」を作っていたことが、今の大手と呼ばれるメーカーの礎になっていると指摘する。そして扇風機に目を付けた理由もシンプルだ。「“暑い”や“寒い”なら、親しみもあり、誰でも理解できます。非常にシンプルな感覚で、逆に“不快である”と感じるのなら、実は大勢の人が不快と感じている証拠。それを解決する製品を作ろうと思いました」。

2011年に登場したサーキュレーター「GreenFan Cirq」(左)と2012年に発売された卓上タイプ「GreenFan mini」(右)

 2010年の初代機発売後も「GreenFan」シリーズは進化を続け、2011年にはサーキュレーターの「GreenFan Cirq」、そして、風の質をさらに高めた「GreenFan2」、2012年には卓上タイプと小型ながらも“モバイル性能”まで追加した「GreenFan mini」と、相次いでラインアップを拡充。そして2014年には、それらのすべての進化を凝縮させるとともに、山形県米沢市の工場で生産される“Made in Japan”モデル「GreenFan Japan」が発売された。

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