麻倉氏: 2つめは、ミック沢口さんが主催する沢口音楽工房のUNAMAS(ウナマス)レーベルから発売された「The Four Seasons」(UNAHQ2005)です。沢口さんは東京・三鷹にジャズバー(店名もUNAMAS)を持っていて、そこで録音した音源をCDやSACDでリリースしていましたが、新たにハイレゾ配信、しかもクラシックに挑戦しました。
「せっかくだから良い物を」ということで、軽井沢の大賀ホールを2日間借り、若手音楽家4人で構成される弦楽四重奏「The Quartet Four Seasons」による「ヴィヴァルディ 四季」を192kHz/24bitのサラウンドで収録しました。実は、沢口さんは“マルチチャンネルの大家”です。「サラウンド塾」を開いて若手エンジニアを育ててきた人ですから、今回の収録も会場の“響き”をちゃんと取り入れました。
大賀ホール自体はリッチな響きを持っていますが、それについてはあまり取り入れず、舞台の上で直接音と間接音を狙いました。通常は客席にアンビエントマイクを向けるのですが、沢口さんはステージ上部の反射板のの下にマイクを仕掛けました。短い距離の反射音をアンビエントとして取り入れるためで、これはクラシックよりジャズなどで奏者の息づかいまでダイレクトに収録したいときに使われる手法です。さらに5.1chは、それぞれ楽器を配置し、ソロパートはファントム定位ではなく、センターチャンネルからハードセンターとして出てくるようにしています。
その結果、われわれクラシック愛好家が聴き慣れているライブ音源とは異なる音源になりました。客席ではなく、ステージ上で演奏を聴いているようなイメージ。さまざまな面で新しい切り口の収録だと思いました。ヴィヴァルディの“春”は既に300〜400種類位の演奏があると言われていますが、従来の延長ではない、新しい価値をマルチチャンネルで作り出すことに成功しているのではないでしょうか。
麻倉氏: 次に、いよいよハイパーソニックを含むハイレゾ音源が登場したことを取り上げたいと思います。先日、JVCの「VICTOR STUDIO HD-Music」で「ハイパーハイレゾ音源」4タイトルの販売が開始されました。何年か前にこの連載でも取り上げたことがありますが、映画「AKIRA」の音楽などで知られる作曲家・山城祥二さんは、脳科学者の大橋力(オオハシ・ツトム)という“もう1つの顔”を持っていて、今回配信される音源はすべてオオハシ・ツトム名義です。
配信タイトルは、「恐山/銅之剣舞」「チベット密教 極彩の響き」「超絶のスーパーガムラン ヤマサリ」、ハイパーソニック・オルゴール「トロイメライ」の4つで、いずれも大橋先生のオリジナル。以前はアナログレコード(LP)で出していましたが、CDでは規格上、可聴域を超える高周波を入れることができません。それが今回、アナログマスターから192kHz/24bitのWAVファイルを作り、配信されたのです。
ハイパーソニックというのは、可聴域を超えた超高周波のことです。本来は聞こえないはずの音ですが、人間の脳の最深部(中脳、視床、視床下部など)を刺激して“ハイパーソニック・エフェクト”を引き起こします。音楽の美しさや心地よさを感じる部分、つまり感動を司る脳の情動神経系の動きが活発になり、音楽が心を打つ効果が劇的に高まります。この「ハイパーソニック・エフェクト」を発見し、論文発表したのが大橋先生です。
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