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クラスDアンプを磨いた3つのデバイス――パイオニア「SC-LX58」(1/2 ページ)

» 2014年08月11日 18時37分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 パイオニアの「SC-LX58」は、「Dolby Atmos」やDSDのネットワーク再生といった最新トレンドにキャッチアップしつつ、AVアンプとしてのベーシックな部分にも手を加えたモデルだ。クラスDアンプに切り替えてから3世代目にあたるが、先代「SC-LX57」との違いを象徴する3つのデバイスがあった。前回に続き、技術担当の平塚友久副参事、および商品企画の山田喜行主事に話を聞いた。

パイオニア「SC-LX58」

ちょっとぜいたくになったESS DACの使い方

 1つめのデバイスは、ESSのDAC(デジタル/アナログコンバーター)チップだ。デジタルオーディオ機器とはいえ、最終的に出力するのはアナログであり、音声信号の変換を担うDACチップは音質の要といえる。「SC-LX58」では、このDACチップおよび周辺回路が大幅に強化された。

 もっとも、変わったのはチップそのものではない。先代「SC-LX57」と「SC-LX58」では、同じ8ch DAC「ES9016」が使われている。9.1ch対応アンプの場合、8ch DACが1基ではチャンネル数が足りないため、SC-LX57では「ES9016」1基と、ES9016とまったく同じ内容で2ch対応のチップ「ES9011」を使い、サブウーファーを含めて10chのD/A変換を行っていた。「ES9011」はもともとパイオニアなどAVアンプメーカーの要望にESS側が応える形で追加されたもの。性能を下げずにコストを下げるためのチップだった。

 一方の「SC-LX58」では「ES9011」を使わず、「ES9016」の2基使いになっている。理由は、SC-LX58における音質強化のテーマの1つである「低域の強化」に必要だったためだ。

 「SC-LX58には2つのサブウーファー出力があります。まったく同じ信号を出すだけなら話は早いのですが、今回はMCAACを進化させ、EQやディレイ、レベルなど個別に調節する仕様にするため、DACがもう1ch必要だったのです」(平塚氏)。

「SC-LX58」のDAC基板

 2つのサブウーファーを前後においても距離やレベルを計測し、低域の出方を調整。EQも独立して調整可能にするなど、低域マネジメント能力を強化したことで、「映画のサラウンド音響はもちろん、音楽の“基音”となる低域の再現性を向上させることで、サウンド全体の表現がより豊かになりました」(山田氏)。

オーディオ用PML MUコンデンサーを共同開発

 2つめは、部材メーカーと共同開発したフィルムコンデンサーだ。フィルムコンデンサーというのは、誘電体に樹脂フィルムを使用したコンデンサーの一種で、温度による容量変化が小さく高精度なため、オーディオ回路には欠かせない部材になっている。

PML MUコンデンサー

 SC-LX58で使用するフィルムコンデンサーは、電子部品の専業メーカーであるルビコンとパイオニアが共同開発したPML MU(薄膜高分子積層)コンデンサーというタイプだ。「最初は『STシリーズ』という製品を勧められたのですが、音質に納得できず、一緒に開発することにしました」(平塚氏)。近年のポータブルアンプ人気もあり、オーディオ用フィルムコンデンサーの需要が増えているという背景もあった。

 サンプルの製作と音質評価を繰り返し、誕生したフィルムコンデンサーは、“磁気ひずみ”の生じない非磁性体をメッキに使用した。「抑圧感を抑え、透明感と開放感のある音を実現できました」(平塚氏)という。

 このフィルムコンデンサーは、DAC周辺だけで10カ所弱、SC-LX58全体では50カ所近くに使われており、デジタルアンプとしてのブラッシュアップに貢献している。製品開発スケジュールの都合で春に発売された下位モデル「VSA-1124」が初めて採用した機種となったが、もとはSC-LX58のために開発を始めたものだった。

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