国内でもブランドの復活を宣言し、「CEATEC JAPAN 2014」で一般向けのお披露目も済ませたパナソニックのHi-Fiオーディオブランド“Technics”(テクニクス)。実際に製品が販売店に並ぶのは来年2月以降になるが、秋のオーディオフェアシーズンに向けて楽しみが1つ増えたという人も多いことだろう。過去数年間、ことあるごとに“テクニクス復活”を唱えてきたAV評論家・麻倉怜士氏に最近の動きを振り返ってもらった。
――まず、IFAでの発表会の様子を教えてください
麻倉氏:驚いたのは、Technicsブランドの統括ディレクター、小川理子さんがピアノを弾いて登場したことです。見たことのあるような人が舞台袖でスタインウエイ(ピアノ)を派手にアルペジォ全開に弾いているなと思ったら、ツカツカと前に出てきて、いきなり挨拶を始めたのです。
最近オーディオブランドの発表会というのも珍しいですが、これほどインパクトのある発表会もまた珍しいと思いました。パナソニックの力の入れ方が伺える内容でした。
麻倉氏:発表会の後、楠見さん(ホームエンタテインメント事業部長の楠見雄規氏)と小川さんにインタビューする機会がありました。そのとき聞いた話でとくに印象に残っているのが、やはり「音の技術が途絶えていなかった」ということです。チーフエンジニアの井谷哲也さんをはじめとする技術者たちがちゃんと残っていて、アンプのトランジスタ素子に使われたガリウムナイトライド(GaN:窒化ガリウム)の研究などを続けていました。
もう1つは、ブランド復活の契機として“ハイレゾ時代の到来”を挙げたことです。これまでのHi-Fiオーディオでは、そのプラットフォームに新しい技術が入り込む余地はあまりありませんでした。しかし今後はデジタル処理がメインになります。そこにデジタルアンプのスイッチング周波数を圧倒的に上げるガリウムナイトライドなどの技術があれば、何か新しいことができる。そう考えたのです。
――なぜ、このタイミングになったのでしょう
麻倉氏:4月の組織改編でパナソニックは、それまでのアプライアンス社とAVCネットワークス社を統合しました。新しいアプライアンス社では、家電、住設、AV製品のすべてをまかなえるようになりましたが、改めて各事業を見回してみると、オーディオ分野だけが極端に弱いことが分かりました。人を取り巻く環境の中で、耳に関する部分(音)が足りない。そこで、しっかりとブランドを再建し、ビジネスにする方針が決まりました。とくに欧州ではテクニクスの人気が高かったので、IFAで発表することになったのです。
――今回、注目を集めた小川理子さんは以前からご存じでしたか?
麻倉氏:小川さんは慶応大学で音響技術を学び、パナソニック(当時は松下電器産業)入社後はずっとテクニクスブランドの製品を手がけてきました。DVDオーディオなども担当しており、実は私も1990年くらいにお会いしたことがあります。
そうした経歴を持ちながら、一方ではプロのジャズピアニストなのですから驚きです。それも関西フィルハーモニー管弦楽団(大阪に拠点を置く名門オーケストラ)と共演するような人。なかなかできることではありません。
――スゴイですね
麻倉氏:私が注目しているのは、音楽家がブランドのトップに立つことで、テクニクスの技術に“音楽”がプラスされることです。私はテクニクス製品には、もっと“音楽”が必要だと思っていました。
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