前回紹介したように、家庭用ロボットとセキュリティ/ディフェンス分野で地位を確立した米iRobot。さまざまな革新的なロボットを世に送り出してきた同社だが、そのロボットを語る上で欠かせないキーワードが、“ワンミッション、ワンロボット”という考え方だ。
周知の通り、「ルンバ」は、家の中の床を掃除することだけを考えたロボットだ。ほかにも同社製品には、プール掃除用の「Mirra」(ミラ)、雨どいを掃除する「Looj」(ルージ)、そして昨年秋に日本でも発売された床のふき掃除ロボット「Brrava」(ブラーバ)など、特定の用途に特化したものばかりが並ぶ。いわゆる汎用型のロボットはない。
こんなエピソードがある。iRobot創業者の1人でCEOを務めるコリン・アングル氏も、多くのロボット研究者と同じようにハリウッド映画から多大な影響を受けた。中でも「スターウォーズ」に登場する“あるロボット”を見たとき、強いインスピレーションを感じたという。
スターウォーズといえば、ヒューマノイド型の「C3PO」や、その相棒の「R2D2」が思い浮かぶが、コリン・アングル氏にインスピレーションを与えたロボットは違う。「MSE-6」という、コンテナにタイヤを付けたような、ずんぐりとした移動ロボットだった。正直、カッコいいと思う人はあまりいないだろう。
「MSE-6」は、ストーリーにおいて重要な役割は持っていない。しかし、登場人物にとっては非常に便利なロボットだった。建造されたばかりのデススターが敵の襲撃を受けた際、帝国軍のストームトルーパー(戦闘員)達を迎撃用のターボレーザーの場所に案内したのだ。「それを見たとき、こんな風に道案内をしてくれるロボットがあればいいと思った。そして“これなら作れる”とも感じた」(アングル氏)。
ワンミッション・ワンロボットとは、1つの仕事に最適化されたロボットという意味でもある。例えば「ブラーバ」が掃除をしている様子を見ると、「ルンバ」とは全く違う行動パターンを持っていることが分かるだろう。ルンバは直線的に部屋の中を動き回りつつ、1カ所にさまざまな角度からアプローチして掃除していない場所をなくす。前回触れたように“見落とし”が許されない地雷探査ロボットと同じアルゴリズムを採用しているのだ。
一方のブラーバは、まるで人が雑巾がけをするときのように“Y字”型の往復運動を繰り返す。それは、フローリングのや板の間をふき掃除する場合、板目に沿って直線的に動くほうが効率的という検証結果が出ているからだ。iRobotのロボットは、それぞれの役割に合わせて理にかなった動きをする。
ただしミッションは1つでも、iRobotのロボットが決して単機能というわけではなく、ロボットならではの利便性を提供している。例えばテレビ会議用ロボット「Ava 500」(エイバ)は、顔の部分のディスプレイをコミュニケーションに役立てる。遠隔地から会議に参加するときは、手元のジョイスティックかiPadで操作することで、話している人のほうに顔を向けることができる。
また「RP-VITA」は、テレビ会議システムのほかに移動能力、遠隔操作システムなどを備えた遠隔医療用ロボット。病院なら、遠隔地にいる医師が現場の看護師と協力し、病室を移動しながら、まるでその場にいるかのように診察できる。リモートプレゼンス用ロボットとうたわれているが、遠隔地において操縦者の“アバター”(化身)として機能する。その利便性が認められ、現在では全米50以上の病院で活用されている。
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