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2015年を総括! 恒例「麻倉怜士のデジタルトップ10」(中編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2015年12月28日 16時10分 公開
[天野透ITmedia]

6位:来年こそ出るか? 国内メーカー製の有機ELテレビ

麻倉氏:第6位には有機EL(OLED)の展開を選びました。十数年前から「未来の理想のディスプレイデバイス」ともてはやされてきたOLEDですが、今まではことごとく期待を裏切ってきたといえるでしょう。

――ディスプレイ技術としてOLEDは随分と長いこと開発をしていますよね。その間に対抗馬と目されていたSED(表面電界ディスプレイ)なんかは消えていきました……

麻倉氏:OLEDに関していうと、まずソニーが「XEL-1」という11型の製品を出しましたが、後が続かずに2010年に販売を終了しました。2011年から2012年頃にはソニーとパナソニックが白色OLEDで50インチ台の試作機を作りましたが、これも日の目を見ずに両社は「ジャパンOLED」にリソースを移行。中/小型へ特化するという“苦渋の歴史”を歩んできました。今や世界的にテレビ向けのOLEDを推進しているのはLGディスプレイだけです。

LGエレクトロニクスは今年の春に日本市場へ4K OLEDテレビを投入している。3月に行われた発表会では、今年日本法人の社長に就任した慶甲秀(キョン・ガプス)氏がアンヴェールを行った

――日本人技術者にとっては悲しい過去ですが、OLEDが辛うじて残ったのは僥倖(ぎょうこう)と言うべきでしょうか……

麻倉氏:孤軍奮闘していたLGですが、今年になってパナソニックを引き込んだというのは金星ですね。これにより65型の曲面4K OLEDをヨーロッパで発表しました。おそらくこれは来年に日本にも上陸するでしょう。パネルが韓国製なのは悲しいところですが「待ちに待ったOLED時代がいよいよ到来か」ということでランクインです。

パナソニックの有機ELテレビ「CZ950」。2015年のIFAで欧州向けの市販モデルが公開された

 OLEDは「コントラストが低い」「応答速度が遅い」「視野角が狭い」という“液晶三悪”すべてを圧倒的に凌駕する基本性能を持っています。その上に形の自由が効くということで、将来的には折りたたみや巻取りなどが視野に入っており、テレビの形そのものを変える可能性もある次世代デバイスです。LGは液晶からOLEDにシフトを始めていて、今年は60万台、来年は150万台という生産台数を発表しました。ハイエンド市場でいよいよ本格的にOLEDが来るか、見ものですね。

 OLEDのポイントは何といっても自発光デバイスということでしょう。ブラウン管やプラズマが自発光だったのに対して、今はバックライトの液晶がその地位を奪っている状態です。が、実際問題で液晶とプラズマでは、あの当時の画質は圧倒的にプラズマの方が上だったと私は思います。

 ハイエンド市場でプラズマが唯一液晶に勝てなかったのは、「営業輝度」、つまり店頭での明るさです。明るい売り場で煌々と光る液晶は見栄えが良かったという訳です。「これではイカン」ということでパナソニックは一度輝度を上げたプラズマを作った事もあったのですが、輝度は高いが色がおかしいとか、ノイズが増えたといったトラブルが発生し、画質のバランスが崩れてしまいました。プラズマはプラズマの守備範囲があったのですが、それが営業的には外れていたのです。

――量よりも質を追い込む事を得意とするプラズマディスプレイにとって、2008年のリーマン・ショックや、2011年の東日本大震災といった社会状況の変遷は大きな打撃でしたね。当時は今以上に「安いは正義」の時代で、高品質がなかなか評価されませんでした

麻倉氏:こうしてプラズマテレビは終焉を迎え、液晶が市場制圧をして今に至るわけですが、そうは言ってもディスプレイの本質は自発光です。なぜかというと、クリエイターは「この部分は明るく、反対側は暗く」といったように映像を作っており、画には総てインテンション(意味)がある訳です。ところが液晶は常にバックライトが光っているのです。そこで何とか光を閉じ込めてコントラストを稼ごうとあの手この手を使います。代表的な例はバックライトにLEDを使ったローカルディミングですが、これでは1画素単位で光を制御できる訳ではないので、明暗差が隣接する画というHDRの時代には限界を迎えるでしょう。暗い背景に明るいものがあった時に、バックライトを大まかなブロック単位で制御する液晶は光漏れが出てしまい、明るい部分の周囲がぼんやりと黒浮きするハロー現象はどうあっても抑えられません。対してOLEDは画素単位での制御なので、光が隣の画素に漏れるといったことはないのです。

 LGのOLEDの弱点はカラーフィルターです。画素単位で発光する白色のOLED(正確にいうと青色OLEDに蛍光体塗布で白色発光)をバックライトに使い、色はカラーフィルターに任せているという構造ですが、これが各画素でRGBの原色発光なら色再現性はもっともっと良くなるはずです。

――LGのOLEDは4K分の微細なバックライトを持っていて、言うなれば画素単位で光量を制御できる「究極の液晶テレビ」とも表現すべき構造で、それよりも各画素が3原色に発光する方が良いに決まっているという訳ですね。後者はかつてパナソニックやサムスンが開発を凍結した方法で、ただでさえ難しい発光層の固定化を寸分違わずに三原色分も重ねる事が困難を極め、ついに製品化には至らずという流れでした

麻倉氏:そうは言ってもLG のOLEDは現段階で既に液晶をかなり凌駕した画質です。この先開発のキーはパナソニックが握っているでしょう。パナソニックはOLEDでなかなか良好な画を作っていますが、これはパナソニックの伝統というべきものが“モノをいっている”のです。

――伝統、といいますと?

麻倉氏:パナソニックにはプラズマに培った時の画素型自発光における研究ノウハウが豊富にあります。今のLGパネルはやはり暗部階調がいまひとつで、来年になったら良くなるといわれていますが、現時点ではまだまだです。実はこの状況は以前のプラズマと同じで、パナソニックにとっては「既に通ってきた道」なんです。

 プラズマの初期は種火により黒が沈まずに、黒に近い色域でノイズがのっていました。それがプラズマ最終形になると暗部階調が抜群に良くなっています。そういった過去もあり、自発光デバイスにおける暗部階調やS/N向上といった知見やノウハウは、パナソニックはかなり蓄積しています。実際今回も、画質に癖があるパネルをかなり上手くマネージしていますね。OLEDはデバイスの力としては確かです。しかしそれだけで押し切るという力技では通用しません。良い素材を使ってどのように画作りをするかが、これからのOLEDに求められる課題でしょう。

――最高級食材は一流料理人の腕と創意工夫によって、初めて最高の料理となるわけですね

麻倉氏:一部報道によると、来年からは日本でもOLEDが出るそうです。そしてパナソニックは現在「パナソニックの絵を作っている」というところをOLEDで先行してチャレンジしています。LGエレクトロニクスも当然で絵作りをしている訳ですが、「では同じデバイスをソニーがやると? 東芝はどうだ?」という話は当然出てくるでしょう。実はこの構図は液晶の時と同じで、今の液晶は台湾のイノラックスとAUOが押さえており、それを日本メーカーに供給しています。東芝は前者、ソニーは後者です。

 OLEDに関しては、シャープ以外のパネル外注組がどう動くか楽しみですね。ソニーや東芝といった、日本のメジャーどころがどのようにOLEDに立ち向かうかが、来年からの見どころです。

LGディスプレイの65インチ4K OLEDパネルは既に世界中のメーカーに供給されており、大規模な国際展示会ではさまざまなメーカーのOLEDテレビが見られる。写真は中国・四川に本拠地を置く長虹(Changhong)のもの

――東芝が液晶パネルの外注を発表した時には「外注パネルで東芝の絵作りができるのか」と心配されましたが、東芝はLSIを工夫することで、その後のモデルでもちゃんと「東芝の絵」を出していましたね

麻倉氏:ですが液晶デバイスはそろそろ限界です。今でもコントラストはVAで、視野角はIPSという二者択一を迫られているわけですが、例えばパナソニックはIPSでコントラストの悪さを指摘されると、次はVAに行くというように、画質的に液晶は煮詰まってきています。さすがにもうOLEDへ世代交代すべきでしょう。そういう時代の先駆けをLGとパナソニックが積極的に踏み出したということを、大いに評価したいですね。

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