ITmedia NEWS >

2015年を総括! 恒例「麻倉怜士のデジタルトップ10」(中編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)

» 2015年12月28日 16時10分 公開
[天野透ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

4位:イマーシブサラウンドに最先端のパワーを――TRINNOVの音場プロセッサ「ALTITUDE 32」

麻倉氏:第5位は「昔のものを今の技術で復活」でしたが、第4位は「今のものを今の技術で革新」といった感じでしょうか。フランスのオーディオラボであるTRINNOV(トリノフ)の最新音場プロセッサ「ALTITUDE 32」がランクインです。第9位に出てきた「イマーシブサウンド」のプロ用サラウンドプロセッサですね。番外編その1でもチラリと触れた本製品ですが、これは驚異的に凄いですよ。価格も驚異的で、32ch分だと575万円です。

演算にインテルのCore i7を用いるイマーシブサラウンドプロセッサ「ALTITUDE 32」。AVアンプとはケタ違いのサウンドクオリティを誇り、最大で32chもの192kHz/24bitハイレゾ信号の同時出力に対応する

――あ、異次元のハイエンド製品だ(苦笑)。それはともかく、一般的にサラウンドプロセッサというと、AVアンプのDSPが受け持つ機能ですよね

麻倉氏:これまで音響空間はAVアンプで作っていましたが、これはそういう次元を遥かに超越したものです。非常に正統的な考えで作られたイマーシブサラウンドプロセッサで、モデルによって異なりますが、最高で32chまでの再生に対応します。

――チャンネル数が完全にプロ仕様ですね。22.2chのスーパーハイビジョンをネイティブで再生させてもまだ10chもオツリが出ますよ(笑)

麻倉氏:トリノフはパリで2003年に創業した3Dサラウンドのラボです。今はALTITUDE 32のように研究結果をメーカーとして製品化したり、プロオーディオ部門や映画館部門で音場補正技術を提供したり、そしてオーディオ部門で2chの音場補正やシアター部門での音場補正などといった展開をしています。基本的に「音場を如何に作るか」を研究開発してきた会社です。

日本での製品説明会に挑む、創業者でCEOのArnaud Laborie(アルノ・ラボリー)氏(写真右側)

麻倉氏:この製品のポイントとしては「高さと奥行きのある3D音場再生」です。チャンネル数が少なければ間が抜けるので、実現するためにスピーカーは多ければ多いほど良いとなります。もう1つはDolby AtmosやDTS:Xなどの基本技術であるオブジェクトベースオーディオによる、高さ方向の再生です。対応フォーマットはDolby Atmos、DTS:X、auro3Dです。

――音の方向は従来からある考え方ですが、距離というのは新しいポイントですね。音の出方が「どのスピーカーからか」ではなく「どの場所からか」という考え方のオブジェクトベースオーディオならではの要素といえそうです

麻倉氏:32chもの多チャンネルを同時処理するには、相当な演算速度が要求されます。通常のAVアンプはDSPで演算するのですが、ALTITUDE 32はCPUで演算します。CPUはDSPの10倍の演算速度にて、多くのスピーカーで「本来あるべき音を実際のスピーカーでどう出すか」というリマッピング処理をします。そして32chに渡るラインでのオブジェクト生成を驚異的な速度で行うのです。

――バックパネルをみると、仰々しく並ぶ大量の端子群の隅っこに、見慣れたPC/AT互換機のパネルが見えますね。これは「イマーシブサラウンド処理専用のワークステーション」という理解で良さそうです

バックパネルには圧巻の端子群ズラリと並ぶ。左端にはPC/AT互換機のバックパネルもあり、本機がPCベースのコンポーネントであることが伺える

麻倉氏:トリノフのもう1つの特長は3次元音場補正を行うスピーカーオプティマイザーです。これはサウンドスクリーンや異なるスピーカーの種類、配置などを最適化する技術です。サラウンドの構築には全チャンネルを同じスピーカーで構成することが理想的ですが、実際はなかなか難しいですよね。例えば私のシアターはフロント2chがJBLのK2で、その他のチャンネルはまた違う種類のスピーカーで構成していますが、こういった機器間の特性差や空間の音響特性を踏まえて最適な音響空間を処理します。

――リアはともかく、まさか80Kgを超えるK2を天井に貼り付けることはできないですからね

麻倉氏:面白いのはそれぞれ微妙に異なるDolby Atmos、DTS:X、auro3Dのリマッピングに対して、最適な最大公約数の位置を割り出すという機能です。現在イマーシブサラウンドで主流となっている3つの規格ですが、スピーカー位置がそれぞれ微妙に異なっているため、どれか1つで固定をしてしまうと残り2つの規格では最適な結果が得られないんです。本製品ではこの微妙な差を平均化・最適化して、3規格で最大のパフォーマンスが得られるセッティングを割り出します。汎用性という意味では非常に重要な機能ですね。

 さて、現在日本のAVレシーバーのイマーシブサラウンド対応状況ですが、上方向は最高でも4ch止まりです。ところが本製品は全部で最高32chもあるので非常に緻密(ちみつ)な音のつながりが期待できます。これにより製作者が意図した“あるべき位置”から、あるべき音がキッチリと出てきます。しかも音に奥行きがあるため、方向だけではなく距離感も再現するのです。これによりイマーシブにおける最高の体験が可能となるのですね。

――これは制作現場において極めて強力なギアとなりそうですね。イマーシブサラウンドの発展のために、再生環境はもちろんですが、制作環境がしっかりとサポートされているという点は極めて重要です

麻倉氏:そういった意味でも本製品は非常に意義深いですね。次のテーマは575万円という価格を如何に民生レベルへ落とし込むかでしょう。新しいフォーマットは制作と再生のどちらもが安定することで初めて普及するわけですから、民生機の拡充は業務機と同じくらい重要です。逆にいうと、技術的にはこれでクリアしているとも評価できますね。

 イマーシブサラウンド再生の場において、ここまで正確で立体的な再生が可能であるということは、現在日本で色々試されている「音楽コンテンツにおけるイマーシブサラウンド」も含めたイマーシブサラウンド化がより期待できるということにつながります。来年以降、オーディオ文化がますます豊かになるのが楽しみですね。

――後編はいよいよトップ3の発表です

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.