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» 2016年07月13日 00時05分 公開

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:「現実がSFじみてきた」 NHKの考える未来の放送技術 (2/3)

[天野透,ITmedia]

麻倉氏:では、今回披露された立体技術を見ていきましょう。まずは先ほど話題に上がったレンズアレイを基礎とした多視点によるインテグラル立体映像方式です。中でも面白かったのが、撮像時にレンズアレイを使わず、単体カメラを平面スキャナーの様に動かすことで広視野角を確保したという方式です。現時点では静止画ですが、従来に比べて視野角が28度から40度へと大きく増えました。表示は4Kプロジェクター4台、8Kプロジェクター1台の合計5台で、従来に比べてかなり明るいものです。投影時に用いるレンズアレイの干渉によるモアレなどの問題があって映像はやや見辛いですが、去年までに比べると明るさが稼げてきたという点は大きいですね。

 もう1つ面白かったのは、再生時にレンズアレイを使わず、光のビームを任意の方向に曲げることでレンズアレイと同等の効果をつくる自分割方式です。この方式の特長は、例えば偏光デバイスの間隔を狭めるとか出力を上げるなどといった工夫が可能なことで、こういった制御操作でより効率的な3D表示が見えてきます。時期的には2030年にレンズアレイ方式インテグラル立体放送が、その10年以上後に偏光デバイスを使った自分割式が出てくるかといったイメージでしょう。

 インテグラル立体映像そのものの改良もかなり進んでいます。奥行き圧縮技術は象徴的な技術ですね。多視点映像は基本的にピントが合焦する範囲が狭いという特性がありますが、テレビは基本的に画面全域が合焦しているパンフォーカスメディアです。ピント山が狭い(ピントの合う範囲が狭い)とテレビの感覚としては困る訳です。そこで出てきたのが、ピント山を拡げるという正攻法ではなく「被写界深度が浅くとも奥行きが何となく理解できるレベルで見えればいい」という逆転の発想です。

――これはなかなかユニークな考え方ですね。全く新しいメディアなので、今までの常識とは異なるメソッドも確かにありえるでしょう。しかし奥行きを圧縮するということは被写体を意図的にゆがめる訳ですから、視聴者が違和感を覚えるのではないですか?

麻倉氏:今回の展示はまさにそういった疑問に対する実験ですね。教室に置いてある花のみにピントが合っていて後はボケているという映像が用意されており、奥行きパースを圧縮することでピント範囲を大幅に拡張することができるとしていました。心配される奥行きの歪感ですが、人間の知覚特性にもよるところで、意外と大丈夫ということが確認されました。こういった技術アプローチもこれから増えてくることでしょう。

レンズアレイ不使用の撮影に対する技術的アプローチ。フラットヘッドスキャナーのようにカメラをスライドさせ、多点撮影を行う。レンズアレイとは微小レンズをシート状にギュギュッと敷き詰めた、平面画像から光分散で立体視を作るためのユニット。現状では平面映像を立体化する最もお手軽な方法の1つといえる

奥行き圧縮は、インテグラル立体映像の物理特性である被写界深度の浅さを克服するアイデア。イメージ的には、スチル撮影でミニチュア感を演出するのに用いられるチルトレンズの逆といったところ

麻倉氏:ここまではインテグラル立体テレビ関連の技術でしたが、ホログラフィーを使ったレンズレス立体表示技術も立体テレビの可能性として研究されています。ユースケースの展示として、スポーツ中継で2Dのサッカー場をそのまま立体化し、その中で選手が動くといった古典的な方式が提示されていました。

――ホログラム立体映像というと「スター・ウォーズ」シリーズのレイア姫が有名ですが、今回はまだあのような動画技術の試作展示はありませんでした。ですが静止画ではかなり高解像度で立体感の強いものがありましたね。あちらは銀塩フィルムを使用したものでした

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