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フィリップスが仕掛けたビッグデータ戦争――真のIoT活用には医療システム改革も必要(2/3 ページ)

» 2016年10月30日 06時00分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

 「例えば、個人が毎日の健康な生活するなかで、IoT製品により蓄積したデータを、もし病気になる前の予防段階から医師に提供して、生活習慣などへのアドバイスを受けられれば、それは患者にとっても医師にとっても非常にいいことですよね。どんな予防策を講じた方がいいかを知るだけで、患者は病気になりにくくなりますし、医師としては、患者が病気になる前の段階で食い止められます。また、仮に患者が病気になったとしても、それまでのライフスタイルが分かっていれば、効果的に診断や治療を行うことができるようになります。もちろんに病気になった原因もより明確に診断、特定できると思います」

フィリップスの医療機器

 とはいえ、一見患者と医療機関がWIN-WINのような関係にも思えるが、ビジネス視点で見てしまうと、気になるのが医師の報酬だ。「現状の医療システムでは、患者が来院することで、初めて医師の治療行為が行われ、それに対して報酬が得られます。もし、IoT製品のデータを予め手に入れ、そこで患者の予防行為に手を貸すことは、自ずと医師は自分のより多くの時間を使って患者を見ることで、未来の患者を減らし、すなわち自らの報酬を減らすことにつながりかねません」

 この点の解決策を、ジョス・ブルナー氏は医療システムの改革によりフィリップスは実現すると話を続ける。「医療システム自体を改革し、医者が予防段階から患者に寄り添うことで、そこからも報酬を得られるような仕組みに変更する必要があります。ただ、既存の医療システムに変更を加えることは、当然医療機関だけでは実現できず、各国の政府などを巻き込んで、法令などの変更も含めて、改革し直す必要があります」

 こういった医療システムの改革は、どの国民にとっては間違いなく大きなメリットであることは間違いない。なぜなら、多くの先進各国では軒並み高齢化が進み、慢性病患者が増えて、医療費が支払い切れないほど逼迫している状況に直面しているからだ。

 とはいえ、仮にフィリップスが医療システムの改革を提唱したとしても抵抗を受けることが予想される。オランダの一民間企業が、国の根幹である医療システムに口を出すというのは、あまりにも大胆だ。だからこそ、ジョス・ブルナー氏がインタビュー冒頭で掲げた新ビジネスのキーワード“Co-Creation”が重要となってくる。「あくまでも患者や医療機関、そして政府主導でそういった方向に医療システムを変更してもらうように、フィリップスはハブとしてサポートするという立場で一緒にクリエイト、つまり、“Co-Creation”しなければならないとフィリップスは考えているのです」

 すでにこういった新たなヘルスケアビジネスを展開している実例として、ジョス・ブルナー氏はスウェーデンでの取り組み例を挙げた。

 「スウェーデンにあるカロリンスカ大学病院は、以前多くの患者を抱え込みすぎていて、満足な診断や治療が施せないぐらいに患者数は膨れ上がっている状況でした。そこでカロリンスカ大学病院では、病気になる前の予防段階で、なんとか患者を健康な生活に戻せないかと考え、フィリップスと新たな医療システムを作るために動き出したのです。現在、ストックホルムの行政側などの賛同も得て、新しい医療プログラムを取り入れ、実際に医師が診察した結果だけではなく、予防段階で生み出された健康に対しても報酬を払われる仕組みを構築し、フィリップスと14年間のビジネス契約を結びました。それを実現するための最新の医療インフラはフィリップスがすべて用意することになっています」

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