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麻倉節全開! ミュージックラバーへ提案する新生ティアックの「NEW VINTAGE」コンセプト麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/3 ページ)

» 2016年11月14日 12時01分 公開
[天野透ITmedia]

 10月に行われたティアックの新製品発表会でゲストとして壇上に上がった麻倉怜士氏は、「『NEW VINTAGE』コンセプトは、これまでのティアックブランドとは明らかに一線を画す」と高く評価した。その理由は、単に価格や音質といった部分にとどまらず、音楽の視聴スタイルそのものを見直したことにあるという。今回はこれからのオーディオ界を占う老舗ブランドの挑戦を、麻倉節全開でひもとく。

ティアックの新コンセプト「NEW VINTAGE」発表会で熱弁を振るう麻倉氏。「かつてティアックは憧れのブランド”だった”」という、麻倉節全開の語り出しでトークがスタートした

麻倉氏:今回はティアックの新コンセプト「NEW VINTAGE」に関する、オーディオと音楽の関係のお話です。現在の状況からはなかなか信じがたいところですが、私の世代においてティアックは信頼のブランドだったんです。

――オーディオ歴10年そこそこの僕が現状を見ると「エソテリックのジュニアブランドだよね、それにしてはあまり本気のオーディオという感じではないけれど……」というのが正直な印象です

麻倉氏:若いオーディオファンにとってはそうなのでしょうが、エアチェック全盛期の1960年代、1970年代では、ティアックのオープンリールやカセットは超一流品だったんですよ。私もエアチェックのお供にいくつかのティアック製品を使ってきました。

 少し私の昔話をしましょうか。私の最初の勤め先は日経新聞の大阪支社で、就職した時は新聞記者ではなく工場の仕事で入ったのですが、くる日もくる日も誤字や脱字をひたすら訂正するだけの作業にあきあきしていました。そんな灰色の日々を彩るために大好きな音楽に浸るようになり、オーディオに凝っていたんです。当時はラジオ放送を録音するエアチェックブーム真っ只中で、例えばカラヤンとベルリンフィルが大阪のフェスティバルホールで演奏したベートーヴェン「田園」の生中継といった刺激的な番組が多数流れていました。もちろんこのお宝放送は私もバッチリ録音していたのですが、最近になってこのエアチェックテープをハイレゾ化してみたところ、これがまったくヘタっていなかったんです。磁力というのはそう簡単には歪まないという事に感動しましたが、それを録ったのが「A-4300」というオープンリールデッキでした。

 大阪暮らしが始まった頃「名機といえばA-4010」と言われており、これは本当に素晴らしいレコーダーでした。しかし新卒の一人暮らしには高くてちょっと手が出ず、結局A-4010はそのまま買えずじまいだったのですが、その後に出たおそらく世界初のオーディオ用カセットデッキ「A20」で念願のティアックユーザーとなりました。昨今のアナログブームにのって巷では今カセットが復活しつつありますが、かつてのカセットというのは凄いオーディオメディアだったんです。もっとも、1963年にフィリップスとソニーがカセットテープを作った時には単なるメモメディアに過ぎなかったのですが、それをしっかりとしたオーディオメディアへ発展させたところに日本のメーカーのものすごいパワーを感じます。

 その次に買ったのがカセットの限界に挑んだ驚異的なデッキ「A-450」で、これは今でも思い出されるほど素晴らしい音でした。何がスゴイかというと音が揺らがないのです。ワウフラッターという音の揺らぎを示す値が一般的には0.7%とか、そんなオーダーだった時代に、A-450は驚きの0.07%という驚異的な値を引っ提げて登場しました。カセットやオープンリール、あるいはレコードといったアナログオーディオにおいては揺らぎがあると音が濁るのですが、それが驚異的にないため、凄くきれいな音だったんです。

麻倉氏のティアック遍歴。これらの機材で録音されたエアチェック音源は今でも自宅のシアタールームに所狭しと並んでおり、カラヤン・ベルリンフィルの大阪公演といったお宝音源を取り出しては最新技術でハイレゾ化を試みているという

 このように、私の中のティアックは青春の1ページを彩るとっても良いイメージ“でした”。質実剛健で信頼感が高く、音も非常にしっかりした安心感を持っており、浮ついた感じはありません。傾向としてはドンシャリではなく重めのフラットといったところで、そういう感じが良かったなというのが、数十年前のティアックブランドに対する私の印象です。また、プレジデント誌の編集者時代に前社長の谷勝馬さんには何回もインタビューしており、個人的にティアックというブランドに対して強い親近感を感じているんです。

「ついぞ手に入れられなかった」と麻倉氏が話すオープンリールデッキ「A-4010」。麻倉氏をはじめとする当時のエアチェッカーにとって、ティアックは信頼のブランドだった
麻倉氏が「プレジデント誌の編集者時代に何度もインタビューをした」という、ティアック創業者の故・谷勝馬氏

――アナログ時代の磁気メディア周りにおいて、紛れもなく一時代を築いたブランドだったんですね。録音で培ったその信頼性は今日のTASCAM(タスカム)ブランドへと受け継がれているというところでしょうか。ですがそれならば、今日のティアックがどうしてこんな状態になっているかという疑問を感じます

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