設立から63年、老舗オーディオメーカーのティアックが変わろうとしている。10月18日に記者会見を開いた同社は、「NEW VINTAGE」をキーワードにした新製品2機種を披露するとともに、企業理念から製造体制に至るまで見直すと宣言。壇上に立った英裕治社長は、「ブランドを再構築する」と力を込めた。
ティアックがリブランドを進める背景には、オーディオ市場そのものに対する危機感がある。最盛期には4000億円市場といわれた国内オーディオ市場だが、現在は1500〜1600億円と半分以下に落ち込み、しかも大半はポータブル機器とみられている。ティアックなど専業メーカーが力を入れてきた据置型のオーディオは苦しい状況だ。
その原因について英氏は、「本来のもの作りを忘れ、利益や規模を追い求めるようになってしまった」と振り返る。まだオーディオ市場に勢いがあった頃、グローバル化を背景に中国や韓国のEMSに製造を頼るようになり、「場合によっては開発まで任せるようになった」(英氏)。すると製品のコモディティ化が進み、メーカー個々の個性が失われていく。市場には似たような製品があふれ、価格競争が始まる。体力のある大手メーカーにとって有利な市場となり、中堅以下のメーカーは苦しい状況に置かれた。「幸いティアックはその時代を生き抜くことができたが、現状に満足はしていない」という。
「われわれは100人のユーザー全員が満足するものを作る会社ではない。もう少し高くても良いものが欲しいという人もいる。そうした意見をもの作りに生かす。だから『もう一度、本当のモノ作りに挑戦してみないか?』と提案した」
リブランドによって何が変わるのか。ポイントは、“原点回帰”と最新技術だ。同社音響機器事業部コンシューマーオーディオビジネスユニット長の大島洋氏は、「まずオーディオ機器としての基本としてフラットな“いい音”を目指す。そしてシンプルなデザイン、さらに日本のもの作りで重要な“匠の技”に徹底的にこだわっていく。そして今だからできる新しい楽しみ方。つまり、ネットワークやハイレゾに対応するということ」を挙げた。
中でも音質については、いくつかの基準を設けて底上げを図る。まずティアックがこれまで蓄積してきた技術やノウハウを見直し、“いい音”に対する考え方をまとめた「ホワイトブック」を作成して音作りの指針とした。また「ゴールデンイヤー」制度を設け、研修やテストを通じて正しい音の評価ができる人材を育成した。新しい製品は彼らの厳しい音質評価をクリアしたものになる。
そして成果の第1弾として登場したのが、ネットワークオーディオの「NR-7CD」と新しい音楽ライフを提案する「WS-A70」だった。
新製品の「NR-7CD」は、同社「Referenceシリーズ」のトップモデルになる「Reference 7シリーズ」の第1弾。ネットワーク対応CDプリメインアンプという多機能機でありながら、DACからパワーアンプに至る全段をデュアルモノーラル構成とし、フルバランス伝送を実現。アンプ部にはICE Power性のClass Dアンプ「50ASX2」をBTL構成で搭載する。140W+140Wの出力を持つ。
OpenHome互換のネットワークプレーヤー部は、ネットワーク内のNASやUSBストレージから192kHz/24bitまでのPCM音源や5.6MHzまでのDSDを再生可能。さらに独自の「RDOT-NEO」回路により、BluetoothやCDをはじめとするすべてのPCM音源を最大12.2MHzのDSDあるいは384kHzのPCMにアップコンバートする。
一方でBluetoothではaptXやAACに加え、ソニーが開発した“ハイレゾ相当”のコーデック「LDAC」を競合メーカーとして初めて採用した。さらにネットワークサービスでは日本ではサービスが始まっていない「TIDAL」「Qobuz」までサポートする。
外観は、古き良きデザインを踏襲しつつも新しさを感じさせる「NEW VINTAGEデザイン」。大型のピークパワーメーターを備え、丸みを帯びたサイドパネルがスタイリッシュだ。なにより熟練の職人がハンダ付けから組み立てまでを一環して行う「こだわりの日本製」だ。「エソテリック製品を製造している青梅の工場で作る」(同社マーケティング部の寺井翔太氏)。
気になる価格はオープンプライスで、店頭では42万円(税込)になる見込み。発売は2017年1月下旬を予定している。
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