「なぜこう、こんなに引きつけられるっていったら、結局、自然の石だから」
――なるほど。自然の力を感じます。
「ほらスフィンクスを見てごらん、首のところは削っているけれど、なるべくそのままの形で作ろうと思っていて。お尻の方とかそのままだろう。切ったりすることもできるけれど」
「作るの大変だったよ、スフィンクス。例えばあ、幼稚園の子供にクマを作れっていうじゃない。そうしたらまずは胴体から作るのね。人間は想像しやすいところから作るんだろうね。おれもまずは足を作ってね、顔の部分になったらああでもない、こうでもないってね。おれきっとねえ、古代人と同じことをしたと思ってんだあ」
夏田さんが使う石は、古いものだと古代エジプトの頃から存在しているかもしれない。自身で石を採ってきて胴体から積み上げていく作業も、考えてみれば古代エジプト時代と同じである。
時代を超えて、夏田さんの手によって再び作られるピラミッドもスフィンクスも、本物とさほど変わらないかもな、なんて思えてくる。
――いやあ本当にすごいです、夏田さん。
「みんなすごいねっていうけど、ある意味イミテーションなんですよ。これもほらエジプトの市場。家畜を使って耕すっていう場面の壁画が実際に存在している」
「資料の本を見ながら作った模倣品だから、本当は、すごくないのよ」
――いやいやいやいやいやすごいですよ。作ろうと思っても作れないですよ(笑)。何というか、これはもう、夏田さんの世界になっていると思います。
「そうかねぇ。おれ歴史が好きだから、勉強してきたから。アイデアが絶えることがなかった。今も、どんどん湧いてきて作業が追いつかないんだ!」
――夏田さんて、お仕事は何をされてるんですか?
「昼は田んぼしてるよ。これがしたくって、毎日仕事をはやく終わらせてさあ」
――じゃあ、夜に作業をするんですか?
「そんなばかなことはしない。ちゃんとした生活をしないと、変人扱いされちゃうからさあ」
――あはは。
こんな風に一人で黙々と作り続けている無名のDIYアーティストたちに数多く出会ってきたが、彼らは普通の日常生活を送っていることも多い。ただそんな普通の毎日の中で湧いてくるアイデアや作品が、凡人には決して浮かばない天才のそれなのだ。
――じゃあ、あっちに見える田んぼって夏田さんのなんだ。
「そうだよ」
――……ん? ちょっと夏田さん、田んぼの奥、何ですかあれ?!
「あれはね、コロンブスの船だよ」
――コロンブス。
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