「そう。ここの風景はね、手前が古代で、奥に行くにつれて年代が新しくなっていくようになってるんだ」
――そんな仕掛けがあったなんて。紀元前から中世に時間軸が変わりましたね。この英語、なんて書いてあるんですか?
「女神エミリーの言葉だよ。コロンブスは昔、黄金の国を探していたといわれている。旅に出る前に、コロンブスは月の女神エミリーと出会って、黄金の国はどこかって尋ねたそうだ。でもエミリーにいわれるんだ」
『どこに行こうと黄金なんてありはしないわ。結局あなたは何もしないのが平和で一番の宝であることを知るでしょう』
ってね」
――……なんだか深いですね。どれだけ宝探しをしても宝なんて見つからない。幸せは普通の暮らしの中にある、ってことでしょうか。
「そういうことだね。この町には、なにもないと思うかもしれないけど、田んぼしたり物を作ったり、ギターを弾いたりしておれは毎日楽しいよ。あ、そうだ、おれのギター聴く?」
ということで、なぜだか分からないけど今、夏田さんのギターを聴いている。舞台は、夏田さんのスタジオ兼卓球場だ。
澄んだ美しいアルペジオが響く。目を閉じれば、その旋律は風に乗り、夏田さんの作品を飛び越えて遠くの山々に飛んでいくような気がした。
――素晴らしい演奏、ありがとうございます。
――夏田さん、夢ってありますか?
「そうだなあ。あのコロンブスの船の奥、見える? あの上の山って全部おれの山だから、あそこにお城を作ろうかと思ってんだ。もう石垣のアーチもできてる」
――自分の城を建てるなんて、夢がありますね。
「この辺の人は、あの石垣ができたときいいねえいいねえと言ってくれたんだけど。今はみんな慣れちゃってなあ。だからこんな風に人が来てくれたらうれしいよ。おれはあそこに城を作って、あとは城下町でも作れたら、もう言うことはねえね」
――城の中でギター弾けたら、気持ち良さそうですね。
「そうなんだよ! おれもそう思って! でも、この間試してみたら、蚊にいっぱい刺されちゃってさ」
――ふふふふ。
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