ITmedia NEWS >

有機ELテレビにみるソニーとパナソニックの大きな違い――CESリポート(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/6 ページ)

» 2017年01月24日 19時48分 公開
[天野透ITmedia]

――おや、確かQLED技術はまだ学会での研究レベルでしたよね? しかもサムスンのテレビ事業というと、CESでもIFAでもここ数年はあまり大きな動きがなかったはずですが、それがいきなり次世代技術採用だなんてことってあり得るんですか?

麻倉氏:そう、これはミスリードを狙ったかなり恣意的なネーミングなのです。以前サムスンはLEDバックライトを搭載した液晶テレビを「LEDテレビ」といっていたことがありますね、今回のものもこれと全く同じやり口なんです。要するに今までやっていた、LEDをバックライトにしたQD発光の液晶と何も変わっておらず、今まで「S-UHD」と呼んでいたものを「QLED」と呼び変えただけです。最も、普通の人はQDのOLEDなどという最先端研究のことはほとんど知らないため、「LEDテレビ」の時のように「それがどうした」と思ったことでしょう。ところが学会関係者や業界に詳しい人達などは「え、本当にやったの!?」と腰を抜かしてしまいました。

 しかし、どう考えても今の技術水準でQOLEDを製品化することは不可能です。「もし本当にやるならば、当然生産設備を入れ、工場をそれ向けに組み替えるよね?」「そもそもサムスンの大型OLEDは随分前に撤退してしまって全くやっていないのにどうやって作るの?」「パネルの印刷生産技術はどこまで精度を上げたの?」というさまざまな疑問は当然噴出します。そういった数々のハードルを全部クリアしたらできなくもないですが、まあそれは奇跡的というか、あり得ません。これはやはりマーケティングによるものなわけです。

 つまりここ数年使ってきた「S-UHD」という今まで通りのネーミングではどうにもインパクトが弱い。ですがサムスンは、ただのLEDバックライト液晶を「LEDテレビ」といって大成功した経験があります(一般人は後で触れるソニーの『Crystal LED』の様に、各画素がLEDになったと勘違いしたりもします)。「これだ!」と。つまり“Q”をバズワードにしてLEDを付けた、というのが正解です。

会場に掲げられたサムスンの広告は、大々的にQLEDを宣伝するものだった。ちなみに従来からサムスンのQD技術を支えている米QD Visionに対して昨年末にサムスンによる買収の噂が上がり、サムスン側もこれを認めている

――ああ、やっぱり。業界人から見ると「LEDテレビ」の時もなかなかアレでしたが、まさかまた同じ手口を使うとは

麻倉氏:サムスンは大型OLED事業から撤退し、テレビは液晶に一本化しています。その流れでOLEDはLGディスプレイがパネルを独占供給し、LGエレクトロニクスその他がテレビを売り始めました。データによると、最近はLGのOLEDがアメリカでかなり売れ出しているそうで、昨年春からこの動きが見えはじめてきました。アメリカ人が好みそうな65インチ以上の大型テレビジャンルでは、サムスンのQD液晶よりも高いですが「金額ベースでも台数ベースでもLGエレクトロニクスが売れている」と第三者団体の「コンシューマー・レポート」などで報じられました。

――コンシューマー・レポートといえば、企業広告を一切受け付けない独立系消費者情報誌として、アメリカでは絶大な信頼が寄せられている情報源ですね。最近ではアップルがMacBook Proのバッテリー関連で非推奨扱いを受け、フィル・シラー氏が即対応を表明してOS Xがアップデートされたということが大きな話題になりました

麻倉氏:リポート結果によって時に大企業の株価さえも大きく変動させるコンシューマー・レポート誌の報告なので、この市場動向はかなり信頼性が高いですね。実際の大きな動きとしては、ブラックフライデーとそれに続くクリスマス商戦で、米国量販店大手のベストバイが売上/株価ともに大幅上昇の大躍進を見せたことが挙げられます。その最大の原動力がなんとLGのOLEDテレビだったとのことです。最近日本でも知られ始めたブラックフライデーですが、OLEDの場合は元々単価が高いモノを安くするため、店舗としてもそこそこの利益が取れ、台数が出ればその分、利益が伸びます。実際にベストバイが行った11月初めの業績説明会でCEOが「OLEDテレビが売れたおかげで、わが社は大儲け」とコメントしたところ、その翌日に株価がグンと急伸しました。

 このようにOLEDは、実ビジネスに大きな影響を与え始めたということが明確になってきています。そのためサムスンの様な特殊な例を除いて、各テレビメーカーがOLEDに打って出ない理由がないのです。そういう意味でいうと今まではLGの孤軍奮闘状態でした。今年はいよいよ日本メーカーの出陣となります、それがパナソニックとソニーなのです(加えて国内では東芝も)。

QD現象の原理は、特定の半導体素材に光を入力すると量子力学の次元でエネルギー変換をするというもので、大枠では太陽電池も同類の現象となる。ディスプレイデバイスの場合、素材を変えることで波長の変換効率などが変化する

麻倉氏:実際の展示内容をお話しましょう。既に市場にOLED製品を投入しているパナソニックはひっそり1台だけと、あまり大きな展開をしていませんでしたが、それとは対照的にソニーはOLEDを全面に押し出していました。今回のソニーブースはどこからも入りやすいとてもオープンな作りだったのですが、中でも一番目立つ真正面にOLEDを置いていました。後ほど触れますが、今回のソニーのOLEDはカタチがテーマで、前から見ても後ろから見ても美しい仕上がりになっています。それを魅せる棚田のようなブースレイアウトで、新製品を色々な角度から眺めることができました。

 ここで私がビジュアル的な観点で興味をひかれたのは、パナソニックとソニーの違いです。パナソニックは“もの凄く”画質命、対してソニーは「ほとんど興味なし」の画質“ノット”コンシャスです。この対比が凄く面白いですね。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.