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審査委員長直伝! 第9回「ブルーレイ大賞」レビュー(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/4 ページ)

» 2017年03月04日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

ベストBlu-ray 3D賞「スター・ウォーズ フォースの覚醒」

麻倉氏:続いてベストBlu-ray 3D賞を紹介しましょう。アワードタイトルは「スター・ウォーズ フォースの覚醒」です。

――Blu-ray 3Dは一時期の勢いに陰りを感じますが、最近のものはどこがすごいのかをぜひ教えてください

麻倉氏:確かに最近は家庭での3Dが減退しており、テレビでもコスト削減の煽りを受けて一時のように“標準装備”とはいかなくなっています。だがしかし、3Dそのものは劇場ではもはや“常識”で、確固たる文化を築いています。しかもイマドキのBDプレーヤーは3Dが標準搭載(まだ2K止まりな点は残念ですが)。3Dで作られたものを3Dで鑑賞するという文化を絶やしてはいけません。

 そこで今回の受賞作は「スター・ウォーズ」シリーズです。エピソード7にあたる「フォースの覚醒」は3Dとして非常に優れている作品で、2D撮影のものを3D変換したものが今回のタイトルですが、この変換技術がすごく進んでいます。以前の3D変換というと、不自然な書割感が出たり、もしくは奥のものが手前に出てくるようなオブジェクトの配置ミスが出たりしていました。話題になった3D変換というと「タイタニック」がありますが、船を俯瞰(ふかん)したカットで奥のマストが手前に出てくるなど、パースがおかしい感じがしました。しかしフォースの覚醒はとても素晴らしい。3Dとして自然で疲れが少なく、しかも書割感がなく奥行き再現がきっちりしていて、なおかつ各オブジェクトがきっちり立体感を持っています。3Dには奥行きとオブジェクトの立体感という2つの要素がありますが、例えばミレニアムファルコン号のキャノピーはしっかり立体感を持っていて、人物一人ひとりの顔の立体感がとても自然に感じるなど、フォースの覚醒ではこの重要なポイントをしっかりつかんでいます。

――タイタニック 3Dが出た時もそれはそれで驚いたのですが、以前の3D変換と比べて良くなった理由は何なんでしょう?

麻倉氏:2Dを変換するには、画を分解してオブジェクト配置を計算しますが、その時の手法が進化してきたというのが大きいです。以前の変換アルゴリズムだと、元々2Dのものを書割的に配置する事はできても、立体的な膨らみを持たせることができていませんでした。この技術が急速に発展してきており、今では1つのオブジェクトの中でさらに緻密(ちみつ)に立体分解をすることができるようになっています。

――少々語弊があるかもしれませんが、3次元・立体的な解像度が上がった訳ですね。確かに以前だと、最初から3DのCG映像と比べて実写の3D(特に変換もの)は細部の立体感をあまり感じず、書割や看板を立てたような印象がぬぐえませんでした。

麻倉氏:それに加えて例えば影の付け方とか、極微細に手前に出す技術とか、そこで階調を付けて不自然にならないようにする技術とか、そういったノウハウも着実に溜まってきています。そういったものが注ぎ込まれたフォースの覚醒は、製作者の意図が立体感や質感あるいは距離感にしっかり反映されていて、3Dとしての表現技術の成熟をとても感じさせる作品でした。

 アワード受賞とはいきませんでしたが「I love スヌーピー」も良い3D作品でした。評価用映像クリップはスヌーピーが第一次大戦のエースパイロットとなって空中戦を戦うというシーンで、リアリティーというより、あくまでCGアニメ的立体感なのですが、しかし質感がとても良かったです。加えて色彩設計が凄く、空中戦の立体的な仕上がりが素晴らしいです。私の評価は1「スター・ウォーズ フォースの覚醒」、2「I love スヌーピー」、3「インディペンデンス・デイ リサージェンス」だったことをお伝えしておきましょう。

3D賞の入選作品。BD中心的話題としてて語られることが少なくなってしまった3Dだが、劇場では盛んに3D上映が行われており、新作は次々と発売されている

ベスト高音質賞 音楽部門(クラシック)「ベルリンフィル/ジルヴェスターコンサート 2015」

「ベルリンフィル/ジルヴェスターコンサート 2015」

麻倉氏:ここからはベスト高音質賞の話題で、クラシック音楽部門を受賞したのは「ベルリンフィル/ジルヴェスターコンサート 2015」です。

 カラヤンの時代からベルリンフィルは映像作品を積極的に出していて、その姿勢が現代ではデジタル・コンサートホールにつながっています。世界的に見てもメディアを積極活用する先進的な楽団といえるでしょう。中でも年末のジルヴェスターコンサートと夏のワルトビューネの森野外音楽堂コンサートは必ず映像を放送で流してパッケージ化しており、夏と冬の風物詩のようになっています。今回のものは2015年の年末にフィルハーモニーで行われたコンサートで、この時はフランスものがメインでした。評価用クリップはサン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」ですが、それ以外にも「カルメン幻想曲」やラヴェルの「スペイン狂詩曲」などが収録されています。

 ベルリンフィルはドイツものに定評がありますが、カラヤン時代からちょっとドイツっぽい小洒落たフランスものも得意にしています。ソリストとして出演した“ヴァイオリンの女王”ことアンネ=ゾフィー・ムターの、ヴァイオリンのツヤやキレあるいは広がり感が非常に的確に捉えられており、ベルリンフィルの低域がしっかり安定した伴奏によるコラボが実に素晴らしいです。特にサラウンドで聞くと、フィルハーモニーの広がりと透明感と低域の厚さが伝わってきます。まるで音が飛んでくるような疾走感が味わえ、オーケストラの音響にソリストの奏でるヴァイオリンの美音が絡み合い、上り立つコントラスト感も大変に見事ですね。ベルリンフィルの作品のうちでも特に優れていると感じます。

 音で受賞しているタイトルですが、絵の方も見所です。今回はホール内にレーザーでブルーラインを引くという演出がされていて、座席前の手すり部分に光の筋をつくるのが、映像で見ると華々しいお祭り気分を感じさせました。

――西洋の年越しはかなりお祭り騒ぎな面が強いようですが、そういうワクワク感も含めた“現場の記憶”が追体験できるわけですね。実にパッケージ文化らしいです

麻倉氏:ところで今回はクラシック音楽部門のノミネート数が少なく少々寂しかったです。次回以降はクラシックの映像作品ももっと活発に出てきてもらいたいと各メーカーさんには注文を付けておきましょう。

――コレに関してですが、ここのタイトル争いにBDオーディオ作品が出てきていないのが不思議でなりません。数年前にはアワードを取っているのでそんなことはないと思いますが、もしかすると“Blu-ray Disc=映像”という思い込みでもあるのでしょうか。色々なハードルはあると思いますが、BDの総合的な価値を評価するならばBDオーディオ勢力にも是非頑張ってもらいたいです

高音質賞のクラシック部門はベルリンフィルのみ。審査基準が厳しいのか業界が寂しいのかは外部からでは何ともいえないが、クラシックファンとしては「もっと頑張ってもらいたい」というのが素直な感想だ

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