アップルは低価格音楽プレーヤーでもイノベーションを生み続ける:担当者が語るiPod shuffle誕生の背景(3/3 ページ)
第3世代iPod shuffleでは、5つのボタンで構成される従来のインタフェースをやめ、新たに本体をボタンレスにしてしまった。このデザインの裏にはどのような狙いがあるのか。アップルのiPod担当ワールドワイドプロダクトマーケティング、ショーン・エリス氏に話を聞いた。
OSから独立した音声読み上げ機能
――イノベーションと言えば、新iPod shuffleには、もう1つイノベーティブな機能がありますね。
エリス ええ。曲名の音声読み上げ機能の「VoiceOver」機能です。iPod shuffleは「世界初のしゃべる音楽プレーヤー」なのです。
――確かに日本語圏では「初めての“しゃべる”音楽プレーヤー」ですが、英語圏では昨秋発売したiPod nanoから「Spoken Menu」という、メニューや曲名の読み上げ機能が搭載されていました。
エリス なかなか鋭い質問です。確かにそうなのですが、この2つの機能には、いくつか大きな違いがあります。
まず1つ目に、iPod nanoの「Spoken Menu」という機能は、視覚障害を持たれた方を補助するために作られた機能ですが、新iPod shuffleの「VoiceOver」は、すべてのユーザーが使うことを前提に開発した機能だと言う点です。新iPod shuffleこそが“初のしゃべるiPod”と我々がいうのは、そういうわけです。
ちなみに「Spoken Menu」と「VoiceOver」では、動作する仕組みそのものにも違いがあります。新iPod shuffleを初めてPCに接続すると、Macであるか、PCであるかに関わらず、iTunesがバックグラウンドで「VoiceOver Kit」というソフトウェアのダウンロードとインストールを行います。
これこそが14カ国での音声読み上げに対応する音声合成技術で、曲名が何語で書かれているかを自動判定し、適切な言語で発声する、といった機能も、このキットの中に盛り込まれています。
――それで、このキットがiTunes経由で、iPod shuffleと連携してくれるのですね。
エリス そうです。新iPod shuffleをPCに接続すると、このキットがiTunesライブラリに入っている曲名を解析して、適切な言語での読み上げ音声を合成し、曲名を声に変換したデータがiTunesを介してiPod shuffleに転送されます。つまり、重たい処理はすべてPC側でやってしまおう、という発想です。
――でもこのやり方そのものは、iPod nanoのSpoken Menuも同じですよね?
エリス 確かにそうなのですが、Spoken Menuは、OSそのものに内蔵されたアクセシビリティ機能を使って実現しています。一方、VoiceOver KitはOSに依存せず単体で14言語の読み上げに対応できる音声合成技術です。
これが違いとなって現れるのは、例えばiPod shuffleをMac OS X v10.4“Tiger”につないだ時かもしれません。iPod nanoの音声合成機能「Spoken Menu」は、Mac OS X v10.5“Leopard”専用ですが、iPod shuffleはTigerでも動作します。
ちなみにVoiceOver機能による英語の読み上げは、Alexというアップルが開発した非常に滑らかで自然だと評判のいい音声合成の声が行っていますが、iPod shuffleをTigerやWindowsで使う場合には、別の女性の声が読み上げを行います。
――なるほど、実は今回「VoiceOver」の機能が搭載されたことで、Mac OS Xそのものにも日本語の音声読み上げ機能が加わるのではないかと期待していたのですが……そうならないのは「VoiceOver」の機能がOSとは独立しているからなのですね。
エリス そうです。
ワンボタンの操作は本当に簡単!?
――それにしても、アップルはマウスも、見た目のうえではボタンをなくしてしまいましたし、ついにiPod本体からもボタンをなくしてしまいましたが、このように余計な要素を削って、シンプルさを追求することには、どのようなメリットがあるのでしょう?
エリス アップルは常に複雑なものを簡略化することでイノベーションを巻き起こす会社です。製品をシンプルにすることは、製品をエレガントにすることにもなりますし、間違えようがないくらい簡単かつ直感的な操作を実現することにもつながります。
もっとも、我々はただ要素を削ってシンプルにするだけでなく、使う楽しさを加えることにも努力しているつもりですが(笑)。
――確かにこれまでのiPodの操作は、直感的で簡単でしたが、新iPod shuffleは、すべてを1ボタンで操作するんですよね。曲の早送りはボタンの2度押し、巻き戻しは3度押し、読み上げは長押しなど、実にたくさんのジェスチャーがあります。これらをすべて暗記するのって、実は結構、大変ではないですか?
エリス 確かに言葉でそういうと大変に感じるかもしれません。でも、そもそもiPod shuffleは、それほど複雑な操作を必要すると製品ではありません。iPod shuffleでよく行われる基本操作だけであれば、簡単かつ自然に身に付くと思います。
また、それ以外の操作についても、「ジェスチャーがたくさんある」と口で言うと大変そうですが、そもそも1ボタンでできる操作のバリエーションに過ぎないので、それほど覚えるのは大変ではありません。
そして新しいiPod shuffleでは、操作機能をヘッドフォンに集約し、ほぼすべての操作を可能にしたことで、本体をポケットやカバンに入れたままでも行えるようになりました。また、リモコンを見なくても、ほとんどの操作がボタン1個で可能です。暗闇にいても困ることがない、むしろそちらのメリットのほうが大きいと思います。
このように新しいイノベーションを投入することこそが、アップルの製品づくりの姿勢なのです。
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