この秋施行の「金融商品取引法」、悪徳投資事業組合にご注意を

» 2007年08月02日 09時18分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

 この9月から「金融商品取引法」が施行される。この法律が施行されるとさまざまなことが変わるが、1つ大きな変化として、投資事業組合に対する規制が強化される。ライブドア事件で投資事業組合が悪の温床になったということで、これに対する監視を強めようというのだ。

金融商品取引法が施行される意味

 今まで投資事業組合は、設立時に特にどこかに届け出る必要はなかったし、完全に自主運営に委ねられていた。そのため、外部からは組合の内容をうかがい知ることができず、組合の存在自体を知りえないケースも多々あった。その不可視状態をうまく利用したのがライブドア事件だとされており、それを機に投資事業組合に対する悪者論が噴出し、結果として金融商品取引法で組合に対する規制を強化することになった。

 外部からは存在すら確認できない、組合という制度を放置したことに対する批判が高まったわけだが、そもそも組合でできることの規模はさほど大きくはなく、社会的、経済的にもインパクトはない。だから国や第三者が監視するだけ無駄だったわけだ。組合は仲間内数人で作ることが多く、外部に知らせる必要性も、外部がその存在を知りたいと思うこともなかったのである。

 しかし、投資業が幅を利かせるようになり、組合を通じた活動が社会、経済に与えるインパクトは徐々に大きくなってきた。プラスに活用される分には全く問題ないが、悪知恵を働かせるとネガティブインパクトも大きいということが、ライブドア事件で露呈したといえる。

投資事業組合は包丁と同じ。結果は使う人次第

 投資事業組合とは平たく言えば、投資ファンドと同義語である。投資ファンドの活動により経済活性化がもたらされている面もあるので、「投資事業組合=悪者」という構図は必ずしも成り立たない。しかし、悪意を持った人が活用すれば、組合は悪者となる。それは、料理人が包丁を使うとおいしい料理ができるが、ひとたび泥棒が活用すれば凶器となるのと同じである。

 そこで、包丁を保有している人を国が把握しよう、という意図が、今回の金融商品取引法には込められている。ただ、プロの料理人なら包丁を正しく使うだろうということで、プロの投資家を対象とする投資事業組合なら金融庁への届出だけ、一般投資家からお金を集めるような業者に関しては金融庁への登録を課すことになっている。登録の方が届出よりもハードルが高いものの、免許制ではないので、誰でも投資事業組合を設立することができることに変わりはない。

「登録=お墨付き」ではない

 さて、最近は「貯蓄から投資へ」の流れのもと、一般個人の投資意欲が高まっている。そこで絶えないのが、投資詐欺である。魅力的な投資話を持ちかけては、お金を騙し取るというやり口だ。

 ライブドア事件を機に、投資事業組合に対して怪しいという印象を持つ人が増えたと同時に、「なんだか儲かるらしい」と思いこむ人が増えたのもまた事実。つまり、怪しくない投資事業組合であれば投資してみたいと思う人が多いのだ。

 そこへ金融商品取引法により、一般個人投資家を相手とする投資事業組合は金融庁に登録が義務付けられた。これを逆手に利用すれば、悪徳業者にとってはまたとない好機となる。

 たとえば、こんなやり取りが考えられる。

業者「投資事業組合を用いて、高利回りを達成します」

個人投資家「でも、組合って怪しいんでしょ?」

業者「そんなことはありません。うちは金融庁に登録する組合です。いわば金融庁からお墨付きを得ていますので。ほら、こちらが金融庁に提出した書類です」

 金融庁に登録をしても、金融庁は活動内容までチェックして審査をするわけではないから、お墨付きを与えるわけではない。何か問題が発生したときに追跡しやすいよう登録をさせているだけに過ぎない。しかし、事情を知らない一般個人投資家には、登録も届出も免許制も同じように聞こえ、「登録しました」と言われるとなんだか大丈夫な気にもなる。

 優れた組合とは、過去にきちんとリターンを投資家に配分している組合である。登録している組合ではない。

一般個人向けのおいしい投資話は“100%クロ”

 そもそも、そんなおいしい投資話がなぜ一般個人に転がり込んでくるのだろうか? と考えてみてほしい。誰もが投資したくなる投資機会なら、当然、プロの投資家がすでにさらっているはずである。資金調達をする側にとって、一発で1億円を出してくれる大口投資家に当たるのと、一口100万円の個人に100人当たるのとでは、後者の方が圧倒的に手間がかかる。手間がかかる個人投資家に当たるのは、怪しくてプロには相手されないから、と考えるべきだろう。

 組合の悪事を防ぐための金融商品取引法だが、この登録制度を逆手に取った悪徳業者が増えないことを祈るばかりである。

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