先週1週間で急激な円高となった。1ドル120円台前半であったものが、1ドル110円台前半にまで上昇した(=円高となった)。経済力が強いと通貨が強くなり高くなる。日本の場合であれば、景気がよければ円高になるというのが簡単な為替の構図である。しかし、今回の円高は、急に日本の景気が良くなったために起こったわけではない。ある特殊要因によって不当に円安状態が続いていたのであるが、その特殊要因が解消されたことで、本来あるべき円高の姿になったという状態である。
景気回復が本格的になってきた今年の年初は、多くのエコノミストが円高になると予想した。しかし、それに反して為替は円安基調で推移。その理由として挙げられるのが円キャリー取引と国内の個人投資家による外貨預金や外貨建て投信の購入の急増である。
円キャリー取引とは、円建てで借金してそれを海外で投資するという行為である。円の金利が低く、海外の金利が高ければ、借金の金利を支払ったとしても円で借りて海外で投資を行えば濡れ手に粟状態で利益を稼ぐことができる。投資家が借りた円を外国為替に両替するときは、円を売って外貨を買うため円安となるという構図である。
同様に、個人投資家が自らの貯金の一部を円からドルやユーロなど海外の通貨に換えて投資をするのも同じ構図であり、円安を招く要因となる。この2つの理由により、日本の景気が回復基調にあったのに円高とならず、むしろ円安が進行したのであった。
円安が進行すればするほど、外貨建ての資産は増えることになる。たとえば、1ドルを120円で買った人にとっては、その後円安が進行し1ドル125円になれば5円得することになる。これで味をしめるとさらにドル建ての資産を増やし、ますます円安を期待するという現象が盛り上がることになる。こういう流れのもと、この半年ほどの間に、個人投資家の間では外貨預金や外貨建て投信の購入額が増えた。
このように、ここ半年の円安は日本の経済力を反映したものではなく、むしろこの円キャリー取引と個人投資家の投資行動という外的特殊要因によってもたらされたものであったため、何かのきっかけ次第では大幅に円高に反転する可能性をはらんでいた。それが、先週の世界同時株安局面で到来し、円高に跳ねたということである。
1ドルを123円で購入していた個人投資家にとって、1ドル113円になると、1ドル当たり10円の損失を意味する。手数料などを含めるとざっと10%のマイナスを被った計算となる。しかし、実際の損失額はもっと大きい可能性が高い。それは、外為取引をしている投資家の中には証拠金取引を行っている人が少なからず存在するからである。証拠金取引とは、簡単に言えば借金をして外為取引を行うことであり、100万円の現金を持っている人が、その10倍の1000万円分の取引を行うことができるというものである。
1000万円分の取引をして、10%の損失を計上すればそれは100万円のロスとなる。もともと保有している現金は100万円でしかなかったので、実質的に持ち金を全額パーにすることになる。もし、為替が逆に10%円安に動いていれば、利益もその分大きくなっていたであろうため、この利益の拡大を狙って証拠金取引に参入する個人投資家も多かったわけだが、今回は痛手を被る結果となった。
振り返ってみれば、2004年、2005年は株式投資ブームであった。しかし、ライブドアショック以降の冴えない新興市場に見切りをつけた個人投資家は、2006年以降に外為取引を主戦場とするようになった。
ライブドアショックの際も、天井知らずの株価に対して、信用取引で借入金を使って保有する現金以上の取引を行っていた投資家が、株価急落により大きな痛手を被った。その傷跡が大きく、今でも新興市場は低迷しているわけであるが、今回もまた同様に外貨投資がブームになってきたところで、証拠金取引によって個人投資家が痛手を被っている。
結局のところ、株式投資、為替が動く理由や仕組みなどをあまり知らないままに投資家がギャンブル感覚で投資をしてしまう結果、不必要な資産ロスを招くことになる。日本人のファイナンシャルリテラシーの向上を望むしか解決策はないのだが、実はサービスを提供する金融機関こそが投資家に何も説明しないままギャンブルを楽しませているという問題も存在する。景気の本格的回復には個人の消費が必要と言われる中、リテラシーの低さが足を引っ張るという構図が毎度続いている。誰かがどこかで本気で解決しようと思わない限り、またしばらくすれば同じ問題に直面することになる。次は3度目の正直となるのか、それとも、2度あることは3度あるとなってしまうのか……。
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