外国人が「日本のため」に活動する時代に、日本人がなすべきことは? 保田隆明の時事日想

» 2007年09月13日 09時27分 公開
[保田隆明,ITmedia]

 先日、全国社外取締役ネットワーク主催の『ファンド資本主義と日本経済』というセミナーに参加し、いちごアセットマネジメントのスコット・キャロン氏と、モルガン・スタンレー証券のチーフエコノミストであるロバート・フェルドマン氏の話を聞く機会があった。

 二人の話で非常に印象的だったのは、青色の目をした2人が「日本のため」という言葉を何度となく用いていたことだ。最初は違和感を覚えたが、途中から「あ、この人たちは真剣に日本のために何をすべきかを考えているな」と思うようになった。話す姿、選ぶ言葉で真剣度合いは伝わってくるものである。

モノを言う株主ではなく、モノを聞く株主

 いちごアセットと言えば、東京鋼鐵と大阪製鐵の経営統合に反対し、株主総会で委任状争奪戦を繰り広げ、個人株主を味方につけて勝利した存在である(4月12日の記事参照)。村上ファンドも成しえなかった委任状争奪戦での勝利は、日本で初のことだった。経営陣と闘争を繰り広げる(ように見える)姿からは、村上ファンド、スティール・パートナーズと同様のアクティビスト、物言う株主かという印象を受ける。しかし、セミナーで垣間見たスコット氏は、それらとは全く異なる様子であった。

 氏は、モノを“聞く”株主を標榜しているとと話す。そして発言の中には、「日本のために」という台詞が続出するのである。最初は、日本国中から嫌われ者になってしまった村上氏やスティール代表のリヒテンシュタイン氏との違いをアピールするためにわざとそういう台詞を用いているのかと思っていたが、たまに感情交じりで発言するその姿からは、本当にこの人は日本が好きなんだなということが伝わってきた。

 そこで、今まで確認することのなかったスコット氏のプロフィールを見てみたところ、日本の在住歴が非常に長い。また、日本での永住権を持っていて、今後も日本に住み続けたいと言う。たまに海外から来日するスティールのリヒテンシュタイン氏、そしてシンガポールへの移住を試みた村上氏とは異なる点だ。

中小企業のインフラ整備が重要

 スコット氏は、東京鋼鐵に投資をした理由について、素晴らしい会社であること、また日本のモノ作りの良さが見て取れるという理由を挙げていた。そして、他にもインフラに恵まれていないため株式市場から見放されている中小企業が多く存在すると指摘し、現在いちごアセットでは、小型株のみを投資対象としていると話した。

 日本の経済、金融政策が大企業、国際企業を向いたものであることからすると、この中小企業に対するスコット氏の態度は興味深い。もちろんファンドは“儲かってナンボ”の世界だから、発言は多少割り引いて聞くべきだとは思うが、それでも外国人が「日本の中小企業には価値がある」と真剣に言っている姿は眩しいものであった。

投資マネーが“日本外し”へ進む危険性

 同じく、モルガンスタンレー証券のロバート氏の発言からも、日本にとって何が今必要かという視点が十分に伝わってきた。投資活動や儲けることが悪と言われがちな我が国であるが、「投資をした人が儲かるインセンティブがないと、海外の人は誰も日本に投資をしたがらない」と悔しそうに発言するロバート氏の姿が印象的だった。おそらく普段から、エコノミストの立場として海外投資家とやり取りをする中で、日本の投資インフラの脆弱さを投資家に指摘され、日本が相手にされなくなる危険性を身に染みて痛感しているのだろう(7月9日の記事参照)

 確かに、米国や英国が投資マネーを呼び込むことで経済成長を遂げていることを考えれば、今後は日本も投資マネーを呼び込む必要性があることは想像に難くない。そこにはいくつかの弊害があるが、その1つとして挙がっていたのが、メディアの存在だ。

 ロバート氏は、善人と悪人を作り出す日本のメディアのあり方に対して苦言を呈していた。「誰かを悪人にすると儲かる」と。さらに、「今の日本は改善を終えて、怠慢期にさしかかっており、今、やっておくべき改革をやらないことが原因で数年後の経済成長に関しては懸念もありうる」と発言していた。

日本のために貢献するのかしないのか

 ロバート氏のプレゼンテーション資料では、桶狭間の戦いを比喩に用いていた。またスコット氏のいちごアセットの社名は、茶会の心得である「一期一会」からとったものだ。ともに流暢な日本語を話すだけでなく、日本の歴史にも理解が深い二人が「日本のため」と発言するのは、日本人として非常にうれしいことだった。ロバート氏が、「目の色は関係ない。日本のために貢献するのかしないのかが重要だ」と言っていたが、まさにその通りである。

 スコット氏やロバート氏のような外国人が真剣に「日本のため」を考え、議論し、行動している一方で、肝心の日本人はどうだろう? という疑問が、ふと頭をよぎった。今やっておくべき改革をしないことで、2008年後半以降の景気に対して懸念があるというロバート氏の発言が現実にならないことを祈るばかりである。一方で日本のために貢献をしようとする日本人が財界、政治の分野でどれぐらいいるのか、向こう数年間はそれが如実に見えることになるだろう――そんなことを痛感したセミナーであった。

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